日本の中央銀行である日本銀行は本年10月の最新の地域経済報告の中で、
「足もとの景気は、ほとんどの地域において拡大または回復方向の動きが続いており、地域差はあるものの、全体として緩やかに拡大している。」
と総括、
- 輸出は拡大傾向にある。
- 設備投資も全ての地域で増加傾向にある。
- 企業の業況感も幾分慎重化しているものの総じて良好である。
- 個人消費は雇用・所得環境の改善傾向を背景に底堅く推移している。
- 住宅投資は若干減少傾向にある。
- 内外需増加が続く中、生産も拡大基調にある。
とのコメントを示しており、日本経済はまだまだ堅調であるとの見方を示しています。
こうしたコメントを見ていると、サブ・プライム・ローンの余波などを睨みながらも、
「年内には利上げ」
といったことも場合によっては予想しなければならないと思います。
これは借り入れを持っている企業にとっては金融コスト増加に繋がるだけに、注意しなければなりません。
特に、資源コスト、エネルギーコストの上昇を製品価格に転嫁できない企業にとっては更に金融コスト高になると、たとえ、売上高は増加、増収となっても利益、利益率が減り減収となる危険性が高まるものと思います。
引き続き、細かい分析が必要になるものと思います。
こうした一方また、国際社会では、
- 世界的なインフレ経済拡大懸念
- 中国本土の緊縮政策拡大と景気減速懸念
- 世界的な不動産バブルの崩壊
- サブ・プライム・ローン問題に端を発した米国経済の拡大鈍化と米ドル安進展懸念
- 円高の進展と円のキャリートレードの解消懸念
といった心配が拡大しており、日本企業にとって、そのビジネス環境は内憂外患の状態にあるのではないかと私は見ております。
こうしたことから、今しばらく、日本経済、世界経済の動向については細かい分析を加えていく必要がありそうです。
[中国本土とロシアの外貨準備高運用について]
さて次にここでは国際金融社会に於いて現在関心が高まっている点について、コメントをしておきたいと思います。
即ち、それは外貨準備高の運用と世界的な資金循環、そして世界的な企業買収を伴う業界再編に関することであります。
そして今回の注目は、世界第一位、同第三位の外貨準備高を誇る中国本土とロシアであり、両国の外貨準備高が、欧米はもちろん、アジアやアフリカに至るまで、各国の金融機関や企業に対する合併と買収(M&A)を行う資金として利用されているのではないかとの見方が強まっていることお伝えしておきたいと思います。
こうした見方は香港などでも現在見られており、これはまた、現状分析ではなく、
「今後の予測に基づいた将来に向けての一つの懸念の表れ」
といった形で示されているものと思います。
そして実際に、いわゆる西側国家諸国は既に特定業種に於ける企業買収を禁止する動きを見せるなど、神経を尖らせており、国際的な摩擦に発展する可能性も出てきていると私は見ています。
それでは、一体、どのような動きに基づいて、このような懸念が出てきているのか?
少し事例を挙げたいと思います。
- 株式時価総額で世界1位となっている中国本土の四大国有・国営商業銀行の一つである中国工商銀行(ICBC)は、南アフリカ共和国のスタンダード・バンク・グループ(SBG)の株式20%を55億米ドルで取得、また同行はこれに先立ち昨年12月にもインドネシアのバンク・ハリムの株式90%を取得、同年8月にはマカオの誠興銀行を5億8,340万米ドル買収しており、中国本土政府の経済外交の尖兵としての役割を果たしているのではないかと注目されている。
- 中信(CITIC)グループ傘下の中信証券は、米国の5大投資銀行の一つであるベアー・スターンズに10億米ドルを投資し、9.9%の株式を取得することで合意した。
- 中国民生銀行は、米国・サンフランシスコに本社を置くUCB銀行の株式9.9%を2億米ドルで取得すると発表した。
- ロシア対外貿易銀行は本年9月に旅客機大手のエアバスを傘下に置く航空・防衛大手のEADSに対する出資比率を3%から6%に高めた。
- ロシアのアルミニウム大手ルサルはスイスの原材料商社であるグレンコアを36億米ドル(約4110億円)で買収し、世界最大のアルミニウム企業となった。
- ロシアの鉄鋼大手セベルスターリは、業界7位の米USスチールの買収を宣言した。
- ロシア鉄道公社は、ドイツ鉄道への出資に向けた準備を開始しているとの噂が出ている。
外貨準備高の増加は、その副作用として自国通貨の上昇、過剰流動性の増加、インフレ圧力へと繋がると見られ、特に外国為替規制が厳しい中国本土やロシアとしては、こうした副作用がより大きいと見られていますが、その副作用を抑えると同時に、外貨準備高を有効活用するためにもこうした国家戦略に基づく世界的な投資活動を展開することは意味があり、これを、国有企業などをフロントに立たせながら実施していく動きを強化してくるものと思われます。
米国や欧州、カナダなどは、中国本土企業による自国企業買収を規制する動きを見せるなど、対応を急いでおり、防衛、メディアなどの業種で企業買収を禁止したり、中国本土の国有企業を対照とした株式を制限の対抗策を検討しているなどの動きが見られ、資本主義、自由主義の中で、自らが作り出してきた、
「国際金融中心主義の矛盾」
に悩まされ、自らがこれに対する規制を検討しなければならない状況になりつつあるのではないかと私は見ています。
中国本土やロシアの攻勢に対して、国際金融中心主義的な動きを示してきた先進諸国がどのような対応を示し、これに対して中国本土やロシアがどのように対応するのか、日本としては、引き続き注意深く眺め、日本として、国家、企業がそれぞれ、そして必要に応じて共同で日本独自の対応策を検討していくべきであると私は考えています。
[政府系ファンドに対する規制議論について]
そして、前述したような中国本土やロシアの動きが見られる中、国際金融社会では、中国本土やロシア、中東産油国などが外貨準備や石油収入を元手に世界の金融市場で運用を増やしている政府系ファンドに対する危機意識を背景とした議論を拡大する動きが見られています。
私の認識では、これまでも例えば、シンガポール投資庁やテマセックといった事実上の政府系ファンド、国家の「外貨準備高運用会社」は既に1990年代には対外投資活動を拡大していましたが、ここにきて世界の多くの諸国、特に2000年代に入って経済情勢の好転を背景に外貨準備高や石油収入を拡大している、中国本土やロシア、そして中東原油国の一部、或いはインドの企業をフロントに立てながら、世界的な業界再編に動くなどの状況が見られるようになり、国際金融社会に与える影響があまりにも大き過ぎると言う認識が拡散してきていると言えましょう。
そして、こうした懸念はまず、G7会議で本格的に、また大きく取り上げられるようになっており、
「G7では、各国政府の政府系ファンドの活動の透明性を高めるため、各国が参照できる指針が必要である」
との考えを示し始めています。
これは即ち、G7の影響力が及ばない新興国の政治判断によって、金融市場や民間企業の経営が市場の中で揺さぶられることへの警戒感が背景となっていると言われています。
そして現在、世界の中に存在する「政府系ファンド」と言われる特殊ファンドの資産規模は推計で2兆7,000億米ドル規模にまで膨らんでいると言われており、これらの資金は、株式、不動産などの中でもリスクの高い投資に積極的に触手を伸ばしている一方、上述したとおり、外国企業を買収する、或いは外国企業を買収する企業グループを背後からサポートしようとするファンドも出てきていると思います。
こうしたことから、G7は透明性向上の具体策を国際通貨基金(IMF)、世界銀行、経済協力開発機構(OECD)などの、G7各国自らが事実上深く関与している、そして中立的な立場にあると言われている国際機関に依頼し、世界的なスタンダード作りを行おうとしています。
そして具体的には、リスク管理、組織運営、説明責任などについてルールを決め、政府系ファンドの動きに一定の網をかけていくことをしようとしていると思います。
私は欲深い人々の動きにはある程度の規制は必要であると考えており、G7をはじめとする国際機関がこうした規制を作っていこうとすることを否定しません。
しかしながら、こうした規制に対しては当然に中国本土やロシア、中東産油国の一部からも不満が出ましょうし、また本当に「規制」をしていくことが必要というのであれば、もっと根源的に、世界の人々が最低限の暮らしをしていくのに必要な食糧や原材料などの山元の権利や取引権利については実需原則を貫き、一次指定取引業者を決め、更にその指定業者に不正がないかどうかを監視する組織を構築、その組織のメンバーに不正があった場合には更に国際的な制裁が加えられるようにするといった厳しい規制を掛けていく事こそが、実は国際社会にとって今、必要な動きではないかと私は考えています。
皆様方は如何、お考えになられますか?
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