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2004年10月[Sanada発 現場から]


埼玉産業人クラブの皆様、愛知淑徳大学の真田で御座います。

 
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[はじめに]
先日、熊本県の有名企業の経営者の皆様方と県職員の方々をお連れして韓国へ赴き、国策銀行である韓国中小企業銀行、韓国貿易協会、アシアナ航空元役員からのプレゼンテーションと情報交換、三星電子、日系企業現地法人、韓国・日系合弁中小企業の工場見学と情報交換をして参りました。

日系企業の対外進出の関心の中心が中国本土に移る中、従来は、
* 労務管理が難しいこと。
* 技術移転に伴う韓国企業台頭に対する危惧があること。
* 韓国の生産コスト全体が上昇していること。
* 韓国国内市場そのものは魅力があるほどの大きな市場ではないこと。
* 難しい日韓歴史問題を抱えていること。
等々を背景に韓国に対する関心はさほど高くなかったと思いますが、最近では日韓FTA締結を睨みながら、新しい日韓経済関係を模索する動きが、日韓双方で出てきているものと思います。

特に、IT・半導体分野で台頭する韓国企業との連携を目指して、これまでは日本企業とのビジネス関係を軸に動いてきた日系部品メーカーや半導体装置製造メーカーの主要顧客が韓国企業に移る中、日韓ビジネスの構図そのものも変化をしている様子も見られますし、日韓中小企業同士の連携や韓国系中小企業の日系企業の下請け企業化(日系企業に対する金型や部品などの供給等)の動きも最近では見られ始めているように思われます。
[直近の韓国経済]
それではここで、韓国経済そのものについて、少し眺めてみましょう。
まずは、以下の主要経済指標をご覧戴きたいのですが、韓国は6,050億米ドルの国内総生産規模を持ち、現在は世界第十一位の経済大国となっています。

また輸出入合わせた交易規模は3,726億米ドルと世界第十二位となっており、造船の生産量は13,034千GTと世界第一位、電気・電子生産は536億米ドルと世界第三位、自動車生産台数も3,178千台となり世界第六位の座を占め、1997年のアジア通貨危機(韓国ではこれをIMF危機と呼んでいます。)を無事に乗り越えて、現在、工業化された経済大国としての道を着実に歩んでいると言えます。

更に、外貨準備高が1,554億米ドルとなったことから、対外債務残高の1,598億米ドルとほぼバランスしており、また短期の対外債務比率も約40%となってきていることから、当面は外貨資金繰りの混乱から生じる、「IMF危機型」の経済破綻問題発生の可能性は低いものと見られており、金融市場の国際化と対外開放がなされた現在、一般的、総括的に見れば、韓国は外資によるポートフォリオ投資の一つの市場としても更に注目されるようになってきていると言えます。

[資料3:2003年の韓国主要経済指標]
出所:韓国政府
国内総生産(十億米ドル)  605.2
一人当りの国民所得(米ドル) 12,646
実質経済成長率(%) +3.1
消費者物価上昇率(%) +3.8
失業率(%) +3.4
輸出(百万米ドル) 193,817
輸入(百万米ドル) 178,827
貿易収支(百万米ドル) +14,990
外貨準備高(億米ドル) 1,554  
短期指標金利(%)  3.97(オーバーナイト・コール金利)
対米ドル相場 1,197.8ウォン/1米ドル
株価指数            810.7ポイント

このように総括してみると比較的堅調な推移を示す韓国経済ではありますが、昨今の情勢は必ずしも楽観的であるとは言えません。 しかしながら韓国政府は、内外の機関が今年の韓国の経済成長速度が鈍化してくるのではないかとの見方を示す中にあって今も、 「今年の経済成長率は5%以上になる。」
との強気の見通しを示し、来年も5.2〜5.3%成長を達成するとの見方を示しています。

これに対して韓国国内財界では、
* 原油価格の高騰
* 国際原資材価格の高騰
* 物価上昇
* 内需の低迷
* 国際競争力の低下
* 輸出の鈍化傾向
など、韓国を取り巻くビジネス環境はここにきて急激に悪化しており、今年の経済成長は年後半に入り前期に比べて悪化するのではないかとの見方を強める向きも出はじめており、今年後半の韓国経済については、私もこうした現場感覚を基にした財界の慎重な見方を支持したいと考えています。

そして、最近になりこうした懸念は更に強まっており、アジア開発銀行(ADB)も東アジア諸国の経済概況を報告する中、韓国経済について、今年の実質経済成長率が当初見通しの4.8%から4.4%となるとの下方修正を行うに至っている。また、来年度の経済成長率見通しについても5.2%から3.6%へと大幅な下方修正を行っています。

ADBでは、こうした下方修正の理由として、 「韓国の改革方向性は、財閥経営の透明性向上、富の分配構造の改善、社会安全網の強化などに向かっているが、これらが長期的に韓国経済にプラスに働くとしても、現状では、韓国の財界リーダーたちには不安感を齎している。 この結果、韓国経済の発展にブレーキが掛っている。」 との主旨の分析結果を示しており、また、来年の経済見通しについては、 「輸出景気が悪化し、韓国経済の成長が更に鈍化するであろう。」 との見方を示し、大幅下方修正の理由を説明しています。
韓国経済の成長見通しについては、このように韓国国内のみならず、ADBのような国際機関からも厳しい見方が出始めていることに注意を払っておくべきではないかと思います。
[中小企業の動向]
さて、こうした状況をベースにして今回は、先ず韓国の中小企業のビジネス概況について説明を受けましたが、
「韓国では中小企業基本法に基づく中小企業の定義の範囲を大きく拡大する方向にある。」
ようであります。

韓国では中小企業に指定されると日本と同様、税制のインセンティブ、基金からの特別借り入れ、信用保証協会による保障、公正取引法の適用免除、規制業種に対する参入許可といった恵沢が受けられますが、こうした恵沢を受けられる企業の数を拡大しても中小企業、即ち、韓国の産業基盤をしっかりと拡充する中小企業の拡大に努めているのであります。

韓国全体の中小企業は現在約294万社あり、これは全体の企業数の99.8%、従業員数で見ると86.7%を占めており、日本と同様、あるいはそれ以上に中小企業の産業全体に占める比重は高く、また従業員数5人以上の中小製造業の数の全製造業数に占める比率を見ると99.4%、従業員数は77.0%、生産額は51.0%、輸出は42.0%となっており、またこの各比重は緩やかな増加傾向を示しています。
また中小企業の産業別分布を見ると卸売り・小売業が全体の30.3%、飲食宿泊業21.5%、製造業11.3%、運輸業10.4%等となっており、また従業員数分布で見ると5人以下が約3割、5〜20人が約3割、20〜100人約3割となっており、5人以下の企業はITソフトなどのベンチャー企業などが多くなっているそうであります。

また、最近の中小製造業の動向を見ると、中小製造業の生産活動は輸出好調等の影響により2003年10月以降、上昇トレンドにあるそうです。(8月の中小製造業生産指数は前年同月対比5.7%の上昇)
輸出企業、中堅企業、重化学企業部門は上昇トレンドを維持、これに対して繊維製品、飲食料、内需関連企業は下降トレンドにあります。
また、中小企業の恒常化同率は約70%を維持(8月は69.2%)していますが、中堅企業が75.2%を維持しているのに対して小企業は67.9%と不振状態にあります。
設備投資に目を向けると中堅企業の輸出関連企業を中心に比較的堅調に推移していますが、活発であるという水準までには至っていないようです。産業別に見ると軽工業よりも重化学工業が、規模別で見ると小企業に比較して中堅企業の投資が相対的には高い投資性向を示しています。

輸出では、好調な企業が見られることから全体的には増加トレンドにありますが、これは鉄鋼、金属、電気、電子などの業種を中心に中国、米国、日本、EUといった先進地域への輸出が増加トレンドにあることに支えられています。
創業動向を見ると、2002年中盤以降減少トレンドに入り、不渡り企業数は1999年以降減少傾向が続いています。(8月の創業企業数は2,336社と前年同月の2,403社より減少。)

一方、中小企業の資金状況を見ると、2003年4〜6月以降困難な状態が続いており、8月には前月対比資金事情が悪化した企業の比率は全体の37.2%と今年に入って8ヶ月連続で30%を上回っており、1997年のアジア通貨危機以降最も悪い状況にあると言われています。特に規模が小さくなればなるほど企業の資金事情は悪くなり、輸出企業よりも内需企業の資金繰りが悪くなっています。
最近の中小企業の経営面での課題を見ると、内需不振による販売不振、原始財価格の高騰、販売代金回収難、資金調達難、原資材確保の困難、過当競争、受注条件の悪化などとなっています。
こうした中、韓国経済は今年1〜6月には5.4%の経済成長を示していますが、通年では5%を切る経済成長率が予想され、韓国の中小企業の経営も10〜12月に小企業、内需企業の不振を背景に全体では悪化する見通しとなっています。これを業種別に見ると、医療、精密機械、一般機械、家具食料品、自動車、コンピューター、事務用機器は好調が続くと見られていますが、繊維衣料木材と内需関連企業は不振状態が続くとの見通しが立てられています。

中小企業に対する融資状況を見ると、中小企業向け貸し出しの増加トレンドは前年対比で大きく鈍化してきており、大多数の銀行がリスク管理強化を図ってきていることから、中小企業向け貸し出しの実行には消極的姿勢を示しており、今年1〜8月の中小企業向け貸し出しの純増額は12.3兆ウォンと前年同期の32.7兆ウォンに比較すると大幅に鈍化しています。(因みに韓国政府はアジア通貨危機以降、手形取引を無くしていく方向にあり、電子決済やファクタリングの活用を増やしているとのこと。)

尚、中小企業向け貸し出しの占有率を見ると中小企業銀行が全体の16.77%、続いて国民銀行の16.05%となっています。
そして、中小企業向け融資トップの座にあるこのトップにある中小企業銀行では、例えば日韓合弁企業に対して、必要とその発展の可能性に応じて出資をすることもあり、国策銀行である中小企業銀行が出資することにより、その合弁企業の信用力を高めると共に、必要に応じて、その合弁企業の経営にもコミットしてくるという方針を示しており、これが優秀な中小・中堅企業育成の契機となるのではないかとの期待が持たれています。

このように韓国の中小企業は全般的にはやや厳しい経営状況にあるようであり、その中でも更に二極化現象が進んでいることは特筆されましょうが、中小企業育成に向けた新たなシステム作りが模索されていることも忘れてはならないと思います。
韓国経済の成長見通しについては、このように韓国国内のみならず、ADBのような国際機関からも厳しい見方が出始めていることに注意を払っておくべきではないかと思います。
[新しい韓国の動き]
さて、韓国貿易協会では、韓国国内では、
「韓国側が短期的に見て大いに不利ではないか。」
と見られ反対が多い日韓FTAの早期締結に向けた準備を進めていることの説明や、空洞化問題に悩む韓国の実情を背景にして、
「日系企業の工場が日本国内に回帰している背景や今後の方向性はどうか。」
といった質問がありました。
また、今後の貿易実務のコンピューター化、国際化を睨んで貿易アカデミーコースを運営しているとの紹介があり、厳しい教育制度の下、日本語・英語が堪能でかつ、貿易実務とコンピュータ処理に明るいスペシャリスト育成に既に努めはじめており、こうした特殊人材の日本企業(大手電機メーカーなど)をはじめとする外国企業への供給を既に行う、ウェッブサイトを利用した外国企業と韓国企業のマッチングを図るなど、日韓FTA締結後を睨んだ日韓ビジネス拡大の基盤作りに努めていることが今回の訪問ではっきりと確認されました。
こうした後、三星電子を訪問、同社の公式見学コースを見た後、社内食堂での意見交換会を致しましたが、家電から半導体まで幅広い総合電機メーカーに発展している三星電子の社内では、このまま先行投資を続けて百貨店型の総合電機メーカーの性格を持ち続けるべきなのか、日本の総合電機メーカーのように選択と集中を図り新しい方向性を模索すべきなのか議論が分かれているようであります。
また、核心部品の製造ができないことや半導体製造装置メーカーを韓国内、あるいは自社グループ内に持たないことに対する不安や課題を強く抱えている模様で、今後はこうした分野の内製化を如何に図っていくかという点に神経を払っています。
そして、こうした視点から日本のソニーとの戦略的なビジネス提携については高い期待を持っていることが窺われました。

ところで、公式訪問の後、夜再び三星電子の営業担当部長をしている私の親友とその部下たちとの会食の機会を持ちましたが、当初は私たちが接待をする予定であったのに、この親友、三星グループ会長のご子息(次期会長候補)とすぐに連絡を取り、逆に会食の接待をしてくれた上、我々を様々な趣向でエンターテインする素晴らしい営業スタイルを見せてくれるなど、私が銀行に入行した1980年代初頭に見られた日本のモーレツビジネスマンたちが見せていたような営業の基本とも言うべき姿勢を示してくれました。こうしたことを見るにつけ、韓国有数企業に勤める人材のバイタリティーといったものを改めて感じました。

尚、三星電子の最近の四半期別営業実績は以下の通りとなっており、今年の1〜9月の累計売上高は43兆7,400億ウォンと前年同期の43兆6,000億ウォンを、営業利益は10兆4,800億ウォンと前年同期の7兆19億ウォンを上回る増収増益となり、特に営業利益は10兆ウォンを突破し、昨年通年の営業利益をも上回る状況となっています。
但し、7〜9月の営業利益は前四半期を1兆ウォン程度下回っており、これはLCD価格の下落の悪影響が予想以上に大きかったこと、アテネ五輪向け応援・広告費用が大きかったことが主要要因であるとコメントされています。
三星電子の今年に入ってからの四半期別売上高・営業利益推移は以下の通り。

出所:三星電子 単位:兆ウォン
  2004年1〜3月 4〜6月 7〜9月
売上高 14.4 15.0 14.3
営業利益 4.0 3.7 2.7

また、日系企業の現地法人や日系企業との合弁企業を訪問すると、その企業が保有している製造機械の多くが日本製であり、また核心部分の原資材が日本製であることに気が付きますが、お話を聞くと、やはり日本製の機械や原資材を使った高品質の製品に対する韓国国内の需要は強く、日系企業の韓国製造業に於ける必要性の高さは今でも認識されているとのことでありました。
また、日系合弁企業の韓国人社長は、 「韓国には製造業という言葉はあっても、ものづくりという言葉は無い。

こうしたことからも分かるとおり、韓国人は日本人が持っているほどのものづくりに対する自負心、誇りといったものを持っていない。」
と語り、技術的な進歩や水準の高さはアカデミックな世界に任せ、ビジネスの世界では常に「利益」を追い求める傾向が強いと語っていたことが印象に残りました。

三星電子でのミーティングを振り返って考えてみると、三星電子でも、 「消費者の目が厳しい日本にコストをかけ、苦労して参入するよりも、その他の地域へ売り上げを拡大することの方が利益率は高くなる。」 との説明があり、中国本土で爆発的な人気を得ている携帯電話などは日本に対して無理して輸出していないとコメントしていました。こうしたことから見ても、韓国企業は敢えて消費者の厳しい目を通さぬ戦略を志向していることなどから、高い商品技術開発にはあまり慣れていないのではないかと思われ、日本やドイツのような職人気質の人材が不足しているという根源的な背景を改めて分かったような気がしました。

また、韓国系企業の中には自社のラインの一部を日系企業に委託したいといった企業も出てき始めているとの話も今回の韓国訪問の中では聞かれました。(これは技術を売っていこうとする日系中小企業にとっては、支払い能力や知的財産権保護に関する信用力のある韓国企業との連携といった視点から見て、新しいビジネスチャンスとなる可能性があるのではないかと思われます。)
その反面、韓国企業の中には労務問題の難しさとブルーワーカー不足を背景に海外進出を図る企業が増えており、空洞化現象を助長する背景になっているとの説明もあり、韓国でも空洞化問題に悩む一面が窺われました。

尚、韓国国内では最近の日本における韓流ブームは以上とも思われているようで、特にNHKニュース10で韓国の俳優が生出演し7〜8分も話をし、有働キャスターがうっとりとしながらインタビューをする姿を見て、「今までの日韓関係では考えられない出来事」と感じた韓国人は多かったはずであると語っていました。
今回の韓国出張でも様々な新しい発見がありました。

そしてまた一方で、熊本県の有数企業経営者と県の皆様方の、韓国ビジネスマンたちに負けぬ逞しさ、バイタリティーを強く感じると共に、熊本県の産官学、特に産官の連携の強さというものを今回の出張で改めて強く感じた次第であります。
埼玉県の皆様ともこうした出張ができれば幸いで御座います。

韓国経済の成長見通しについては、このように韓国国内のみならず、ADBのような国際機関からも厳しい見方が出始めていることに注意を払っておくべきではないかと思います。

愛知淑徳大学ビジネス学部
教授 真田 幸光


真田先生のプロフィール

真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京 三菱銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ド レスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。

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