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2005年7月[Sanada発 現場から]


「日本経済の再生とグローバル・ファンド」


今回は少し大局的な視点での話題を取り上げて見たいと思っています

[1]アジアに於けるグローバル・ファンドの動き

グローバル・ファンドが対日投資、そして対アジア投資を拡大することによって、アジア各国の金融市場、就中、株式市場の時価総額規模を押し上げ、これを契機としてアジア各国経済の再建がよりスムーズに図られることとなったことは、グローバル・ファンドが果たした一つの大きな役割であると国際金融市場では認識されており、またこうした視点から見ると、グローバル・ファンドは日本経済、アジア経済の発展に寄与したと評価することが出来ると私は考えています。

そしてまた私の知るところでは、国際的な機関投資家は、世界各国の様々な投資対象との比較をし、またインデックスとの比較をしながらアジアに対する投資のリスク対比リターン=収益性を分析、対日、対アジア投資を実行しており、その投資は極めて論理的で説得力があると考えらます。

こうした様子は例えば2004年前半の国際機関投資家の対外投資にも見られています。即ち、2003年春から米国の国際機関投資家たちは日本やアジアに対する株式投資(直接投資は除く)を拡大してきており、経済的・政治的リスクが高い割にリターンがあまり期待できない中南米、欧州向け投資を縮小する一方で、日本・アジア諸国への傾斜を著しく強めてきています。純買越し額で見ると2004年3月までの12ヶ月累計ベースでは純買い越し額が840億米ドルとなり、前年同期比で345%もの増加を示しました。これは2003年5月〜2004年4月の1年間で見ると、米国の対外株式投資全体の95%を日本・アジア向けが占めるという著しい傾斜を示したということを意味するものとなっているのです。(尚、日本向けとそれ以外のアジア諸国向けの内訳では、日本68%、その他アジア32%となっています。)
このように、リスク対比リターンを勘案した論理的で説得力のある投資が最近でもアジアに対してなされていると考えられるのです。

しかし、このように論理的かつ説得力がある投資を実施しているからといって、グローバル・ファンドを運営する国際機関投資家やそのファンド・マネージャーが当該投資対象企業や国家の永続的、かつ更なる発展を期待し、また発展を積極的・能動的に誘導しているとは断言し難く、一般的に彼らは自らが狙い定めた期間内に予想した収益性を確保することを具現化することに多くの神経を払い、またその為に、必要に応じて経営参加など赤字主体に対する関与を図り、その赤字主体の資産価値を高めるような動きを示すことが通常の行動様式でありましょう。そして、国際金融市場に於いて参加者として活動していると、こうしたことが背景に見られることから、は、グローバル・ファンドが日系企業やアジア企業、そして日本経済やアジア経済の発展に寄与する役割を担っていると評価することには限界があるのではないでしょうか。

それでは日系企業や日本、アジア企業やアジア全体の発展に寄与する可能性があるグローバル・ファンドとは一体どのようなものが挙げられるのか、ここで考えてみたい。

人も組織も周辺環境が変化すれば自ずと自己変化していくという習性を持つ。そして、機関投資家やファンド・マネージャーもその例外ではありません。

一般的に機関投資家は、
「巨額の資金を基礎に分散投資をすることによってリスク対比リターンを考慮した効率的な資金運用が可能とし、またプロフェッショナルな情報収集と分析を以って個人投資家や法人投資家に利益を齎すべく金融サービスを提供、自らも高い利益を享受している。」
と考えておくべきでしょうが、最近、
*機関投資家が直接投資企業に対して資金供与をし、この資金が元手資金(=Back Finance)となって直接投資企業の国際的な活動を活発化する傾向が見られる。
*機関投資家自身が直接投資企業の中の「合併と買収(=M&A=Merger & Acquisition)」を実行する企業と同様に、一定期間、投資等によって与信を実行した対象となる赤字主体の経営やプロジェクトの運営そのものに深く関与し、限定的ではあるが、当該赤字主体が健全な方向に動くよう能動的に働きかける傾向が見られる。
といった現象が見られ、特に経営が悪化したものの、早期の回復可能性が高いと見られたアジア諸国に於ける機関投資家の行動の中にこうした現象が見られるようになったと思います。

そして、例えば後者の事例として次のようなものが挙げられます。即ち、韓国に於いては、ニューブリッジ・キャピタルという国際機関投資家がアジア通貨危機直後に当時の第一銀行の再建とこれに伴う収益獲得を目指して資本参加、買収を実行した後、経営陣を同行に派遣、経営再建を達成し、これが一つの大きな契機となって韓国の金融システムは安定化に向けて前進をしたという具体的事例が見られており、第一銀行という企業の再生と発展、韓国という国家の金融システムの再編と発展に寄与したという典型的な実績があることを忘れてはならないと思います。

また、ここで我々がよき教訓として注目、そして記憶しておくべきことは、この際に、赤字主体となった第一銀行と韓国政府当局がしっかりと自らの状況を説明した上で国際機関投資家と対等な立場での折衝を行い、赤字主体の意向や思惑を時に明確に、時に暗に示唆をしながら、示していったことが、黒字主体である国際機関投資家、赤字主体である企業と国家双方にそれぞれの利益を齎したと考えられる点にあると思います。

従って、こうした事例より見ても、黒字主体であるグローバル・ファンドを、赤字主体である企業や国家が、単純に、或いは感情的に「はげたかファンド」などと蔑視をせずに、

「同じ船に乗り、共存体制を模索、それぞれの立場でのそれぞれの期待利益を論理的、平和的に求めていけば、赤字主体としての企業や国家にとっても大いにメリットが期待できる。」

と認識しておくべきではないでしょうか。

そして、そうした意味でアジアの赤字主体は、もっと冷静で論理的、かつしたたかな交渉姿勢を以って、国際機関投資家と接し、これを有効利用していくという意気込みをもつべきであると私は考えています。

[2] 新しい風、中国・中華系資本のアジア戦略と日本経済再生

最近、私は日系企業の経営アドバイスや地方自治体の経済新興などの仕事に携わる中、中国・中華系資本のアジア戦略に呼応、これを赤字主体として、これらの資金と共存していくという精神の下、積極利用していけば、日系企業の成長や日本経済の再編にも効果的であると考えています。

そして、その典型的な動きは、台湾の国民党系機関、或いは中国とシンガポールの国策資本の資金運用に見られていると見ています。

台湾系資本の場合、例えば国民党のいわゆる党営ビジネスの推進機関の一つとして置かれた中華開発が運用する資金が、台湾との国交関係のある中南米諸国との経済外交の中で「民間資本」として使われ、主として中南米諸国の不動産開発やインフラ開発の資金の一部として活用されるといった事例もあり、或いは国交関係の無いわが国・日本に対しても、日系大手商社との戦略的なビジネス・アライアンス(=Strategic Business Alliance)を前提に東京都区部のビルを一棟購入すると共に、ここに台湾から日本に進出する台湾系企業のインキュベーションを設立するなどの動きを見せており、極めて国家戦略に近い形での資金運用姿勢を見せています。

尚、党営ビジネスはいわゆる国策機関が推進するビジネスとは異なる為、議会の承認や監査を受ける義務は無いということで、特に国民党が与党の座にあった李登輝政権下では大変活発な動きを示していた。しかし、民主進歩党の陳水扁総統が政権の座に就くや国民党の党営ビジネスは、政治的背景も相俟ってその拡大が鈍化している点、付記しておきたい。

一方、シンガポール政府は、国家が保有する外貨準備高を運用する機関としての位置づけを与えた組織であるシンガポール投資庁(GIC)を設立、シンガポール投資庁から様々な国内・海外投融資を実施しています。例えば、私がかつて携わった案件でもありますが、1997年の香港返還を睨み、香港に於けるマリオット・ホテルの経営権を処分したい既存投資家の意思と思惑を知ったシンガポール投資庁は、自らの資産配分(=Asset Allocation)とポートフォリオを意識して香港に於ける資金運用拡大を決意すると共に、香港に於けるシンガポールのビジネス基盤の拡大を目指して資本参加をしてくるなど、極めて論理的、合理的であり、利益確保を目指した戦略的資金運用を図ってきています。また、日本に於いては、東京・汐留地域の開発に於いて主導権を持つプロジェクト・リーダーとして大きな役割を果たしてきていることなどはあまりにも有名であり、シンガポール投資庁の日本に於ける活動は既に積極的であると見ておくべきでありましょう。

このように、台湾やシンガポール等、中華系資本が日本やアジアで積極的に資金運用する事例が見られており、こうした国際金融資本との協調を通して日本経済再生の具体策を検討していくことも可能であります。

そして、また私が最近注目している国際金融資本の一つに中国系資本があります。

@  中国は、国家経済発展の勢いがあり世界が注目する大国となっています。
そして、世界有数の国内総生産(GDP=Gross Domestic Production)を有する大国となり、また外貨準備高の保有高は日本に次いで世界第二位、貿易規模は日本を抜いて世界第三位となるなど、中国は、就中、その経済規模と保有外貨を主たる背景に、これまでの「外資受入国」としての中国と共に、「対外投資国」としての姿を、国際金融社会に対して示し始めていると言えましょう。

中国は従来より国際連合の常任理事国としての影響力をはじめとする国際政治舞台での強い外交力を保有しています。また、核技術を保有していることなどをはじめとする世界的な軍事力を保有する国家としても、その影響力は強大です。そして、昨今の経済発展は中国をして真の大国とならしめる可能性を一層現実化してきていると言えます。

こうした状況下、社会主義国であり、共産主義国でもある中国は国家、即ち、中央政府・国務院を中心に国家の基本運営政策を定め、これに沿って各種の具体的政策を計画、推進してきていますが、その一つの重点分野に、国家経済発展に資する対外投資を拡大していくという方向性が見られていると言えましょう。
即ち、例えば中国が今後の経済発展を果たす上で必要なエネルギー資源の量・価格面での安定確保を目的として、CIS諸国やシリアの油田開発に資本参加したり、最近ではエネルギー資源開発を睨んでのリビアとのコンタクトを深めるなど、国家の基本戦略に則り、具体的な政策に沿った対外投資を拡大しているのであります。

また、ハイアールなどの有数企業は、中国製品の商品シェアと認知度を高めることなどを目的として、米国での生産拠点運営を既に実施しています。

更に、最近では自国の自動車産業の発展を睨みながら、韓国に於いて経営不振に陥っている双龍自動車を買収することを検討、この結果として、上海自動車グループが双龍自動車買収の第一優先交渉権を獲得したなど枚挙に暇がありません。

このように、中国の国有・国営企業を中心とする大企業は中央政府・国務院などとの連携の下、国家政策に沿って、国家の資金を背景としながら、国際的な投融資活動を拡大する姿勢を示し始めています。

そして、私の認識では、中国の対外投資対象は今後、日本にも拡大してくるものと思われます。実際に私のヒヤリングによると、中国政府は中国が必要とする技術や経営ノウハウを保有し、買収が可能な企業を具体的にリストアップする作業に入っているものと思われます。

投下される資本の原資は国家資金であるので、少なくとも中国国内では最も安価で確実な資金であると考えられ、これを国家基本戦略の下、情報収集、分析した投資対象に対して投融資してくるものであり、その資金効率は高いと一般的には考えられ、更に、中国政府の現状の狙いは、投下した資本から生じる配当や利子、或いは将来売却する時に発生する売却利益といった金融面での利益に留まらず、上述したような資源エネルギーの安定確保や自国産業に欠如している技術や経営ノウハウの獲得といった多角的視野から見た投資利益の追求にまで広がっているものと思います。また、その為に、例えば発展する中国市場を買収する企業のマーケットとして紹介、開放し、買収した企業の発展に資する方向性を示唆するなど、協調姿勢を示し、買収企業を飲み込み利用するといった印象を与えぬような配慮を示す場合もあます。従って、日系企業やアジア系企業、或いはアジア国家はこうした中国系資本を保有し操作する国際機関投資家との交渉での接点が広がり、その結果として、日本経済やアジア経済の発展を意識した中国系資本との協調の可能性は、金融面での利益追求が主となる通常の国際金融資本との協調の可能性よりも高く、一層有益となるとも考えられるのです。

既に日系企業に対する中国系資本による投資は始まっており、相互協調を目指して水面下での動きは徐々にではあるが着実に拡大していると思われ、こうした中国系資本の有効活用の可能性を日本やアジア諸国はより検討していくべきではないでしょうか。

[3]アジア新時代に於ける国際金融資本の動き
アジア通貨危機という事態を経てアジアは今、再び経済発展のトレンドに入ろうとしていると私は見ています。
しかし、その経済構造や方向性は、明らかに体質変化してきており、国際化の流れにあって、特に金融自由化から発生する国際金融資本の動きはアジア経済、一国経済、そして、一企業の運営や経営に様々な影響を与えていくこととなりましょう。

そこには不安と期待が交錯しているが、国際金融資本を投じる黒字主体もその資金を受け入れる赤字主体も、共に自らの意向や意思を論理的かつ情熱を持って相手に知らしめ、ハード・ネゴシエーション(=Hard Negotiation)を経て、相互利益を追求、協調と共生の社会を構築していくことが我々、今を生きる者たちが後世に対して果たすべき責任なのではないでしょうか。

そして、最後に日本にも収益性を中心として運営されるグローバル・ファンドではなく、資金の有効活用を考え、赤字主体との共存共栄を意識したグローバル・ファンドが一層構築されていくことを期待したいと思います。

 来月もどうぞよろしくお願い申し上げます。

以上
 
愛知淑徳大学ビジネス学部
教授 真田 幸光


真田先生のプロフィール

真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京 三菱銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ド レスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。

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