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2005年9月[Sanada発 現場から]


「ウラジオストック・牡丹江紀行」

今般、全国ビジネスサポート協同組合連合会理事長とその関係者の皆様方と関西空港、ロシア・ウラジオストック、そして陸路、中国本土・牡丹江に入り調査をし、北京に戻るという出張に出ました。

ウラジオストックは世界的にも名高い軍港で、先月の中露合同軍事演習のロシア側の拠点にもなったところであります。

そしてまたロシア沿海部の中核都市として注目され、中国本土や朝鮮半島を睨む重要拠点でもあり、中国本土、そして韓国、北朝鮮との経済交流も最近着実に拡大しているところであります。

ウラジオストックはまた、1891年に起工式が行われたシベリア鉄道ウスリー線の起点でもあり、シベリアと欧州側ロシアを結ぶ重要な物流の要所でもあります。

一方、牡丹江(ぼたんこう、Mudanjiang)は、中国本土・黒龍江省南東部の主要都市であり、面積40,610km2、人口271万人(うち朝鮮族13万人)。4市、6県を管轄する区級の市であります。また市区人口80万人となっており、東はロシア連邦沿海州と接し、南は吉林省延辺朝鮮族自治州と接しており、北部は黒龍江省鶏西市、西部は同省の省都であるハルビン市と接しており、日本とも歴史的に見て大変関係の深い都市としても有名で、小説・大地の子の舞台の一つともなった都市であります。

市域を北流してアムール川に注ぐ牡丹江は航行が可能であり、国際河川港でもあることから、国際ビジネスの可能性もある都市であり、また市域東部は興凱湖に注ぐ綏芬河が北流、市区は鏡泊湖に臨む素晴らしい景観を持っています。

また、歴史は古く、古代「渤海」の領域で、寧安市渤海鎮には渤海上京龍泉府の遺跡が残っており、市域全体で多くの渤海墓が発掘されるなど、歴史的遺産の多い町でもあり、様々な意味で今後注目される都市であります。

経済指標に注目すると、現在の域内総生産(GDP)は301.8億人民元、GDP基準で産業構成を見ると第一次産業が39.7億人民元、第二次産業127.9億人民元、第三次産業134.1億人民元となっており、また一人当たりのGDPは1,349.4米ドルと比較的高い数値となっています。

農林水産業では、小麦・水稲・とうもろこし・大豆など食糧生産の出来高は1,267,000トン、牧畜業の生産総額は17.9億人民元となっており、工業分野に目を向けると製紙、タイヤ、原炭などを中心に売上高は117置く人民元、総利益は1.8億人民元となっています。また年間固定投資総額は71.7億人民元、このうち外資は香港、マカオ、台湾などを中心に7.2億人民元となっています。また年間貿易総額は34.9億米ドルとなっており、3.7億米ドルの貿易収支黒字となっています。外国との交流については今後、韓国・仁川とのチャーター便が開設される予定となっており、ロシアに続いて韓国との経済交流拡大も期待されているとのことでありました。

今回はこうした二つの都市を中心に調査をして参りました。そこで、以下、ご参考まで、簡単な形で纏めましたウラジオストック・牡丹江、そして北京紀行をご報告申し上げます。ご一読ください。


さて先ず、初日は朝10:25羽田発のフライトに乗り関西空港、そしてここでウラジオストック航空に乗り換え、サマータイムで2時間の時差があるウラジオストックに向かいました。関空からウラジオストックまでは、日本海を跨いで僅か約2時間の距離にあり、その近さを改めて感じました。

そして、ウラジオストックでの比較的スムーズな入国審査(ロシア沿海部では、待つこと、我慢すること、そして待つことと我慢することを覚えることを最初に学ばなければならないと言われるほど、時間にルーズな側面があるのですが、入国審査は予想以上に順調でほっとしました。)を終え、中国本土・黒龍江省・牡丹江市から私たちを迎えに来た同市幹部の皆さんと合流致しました。

ロシアから中国本土に入る際には、原則として中国本土側の迎え人を必要とするとのことで牡丹江市幹部が出迎えてくれたのですが、彼ら曰く、
「ロシアでは不測の事態が起こった際の法的対応が難しい。」
とのことで、迎え人の中には弁護士も同行されていました。

牡丹江はウラジオストックに最も近い中国本土の主要都市であり、ウラジオストックの庶民生活を支える食糧や生活必需品を供給・輸出する拠点としての牡丹江市のウラジオストックに対する役割は大変大きく、こうしたことから、牡丹江市のウラジオストックに対する目に見えない影響力は大変強いと感じられました。

そして実際、今回は牡丹江市関係者ウラジオストック駐在員が多くのアレンジを試みてくれ、例えば空港から市内・現代ホテルまでの移動は、ロシア警察のパトカーが先導してくれるなどの配慮があり、大変スムーズに市内にある現代ホテルに到着することが出来ました。

空港から市内までの間、シベリアの森林部をイメージさせる林などを抜けて参りましたが金曜日夕刻ということもあり、車線は自家用車とバス、そしてトロリーバスやトラックなどで大混雑、そしてまたよく見ると中古の日本車が散見されました。

ご存知の方も多いと思いますが、ウラジオストックは日本の廃車予定車を低額で買い入れロシア市場に販売するカーディーラーが多く、またここでは登録税などの自動車関連税がないことから、小金持ちの自動車購入意欲が比較的高い地域でもあり、交通ラッシュの遠因はこうした社会的背景によっても見られているものと考えられます。

さて、こうして市内に入り、ホテルへのチェックインを終えた我々はシベリア鉄道のウラジオストック駅構内にある高級ロシアレストランに入りましたが、ボルシチとサーモンステーキ、野菜とパン、そしてウォッカの夕食で、一人当たり約1,700円(約380ルーブル)の食事をしました。聞くとウラジオストックでは夕食といえばお酒が中心、また一食当りで費やすお金は約100ルーブルとのことで、こうしたことを念頭に比較すると、私たちはやや高めの夕食を戴いたこととなりました。

そして、ちょうど第二次世界大戦終了60周年の記念式典とこれを祝う花火をレストランの窓越しから楽しみながら、夜のひと時を過ごしました。

こうして食事を終えた我々は楽しい歓楽街ツアー組とお帰り組に別れ、1日目の行動を終えました。(ロシア人は楽しむことが得意な民族であると自負しているそうで、夜の歓楽街も楽しいそうです。)

尚、宿泊ホテルである現代ホテルには北朝鮮人や韓国人も多く宿泊するそうでありますが、聞くとウラジオストック市内では、観光客としては中国人、日本人が主流であり、ドイツ人やオーストラリア人も最近は多いとのことで、観光客としての韓国人や北朝鮮人は少ないとのこと、一方また、中国人労働者については、建設分野などでウラジオストックに於いて活躍しているとのことでありました。

また、韓国については、韓国人ビジネスマンの影響力やプレゼンスは吉林省・吉林・延吉・コン春などに比べると、私の見る限りでは圧倒的に低いものの、三星やLGの家電製品が多く販売され、またLG OILがガソリンスタンドを持つなどの影響力を示していた点が印象に残りました。

二日目、土曜日であったこともありこの日はまず、市内観光と日本車などを中心に扱うカーマーケットを見学などの為に移動を開始しました。

ウラジオストックは上述した通り、近代史に於いては、もともとは軍港として栄え、またシベリア鉄道の起点(或いは終点)として交通の要所となっていましたが、社会主義体制の事実上の崩壊以降は市場経済化が急速に進み、企業の民営化も進展しています。

そして、国内評価としては、モスクワ、サンクトペテルブルグに続く経済発展都市であり、全般的に言えば、自由経済を謳歌しているものと感じられました。

しかし、この地域には大きな産業拠点はなく、街の性格としては、貿易と通関・荷役等の貿易関連ビジネス、水産加工、木材関連ビジネス、石炭関連エネルギービジネスなどが中心となった都市となっており、やや極端な言い方をお許し戴くとすれば、仲介貿易・仲介ビジネス都市の性格が色濃くなっていると言えると思います。従って、ここは産業資本というよりは商業資本的な雰囲気の強い都市となっており、また一見すると私の大好きな米国の都市・サンフランシスコに似た、坂と港とトラムを持つ観光都市の雰囲気を併せ持つ街であると言えましょう。(因みに、富裕層は管理費が比較的安く船体そのものも4,000万円ほどで買えるヨットを保有している人がいるそうで、実際に海外線から見た湾内には多くのヨットが浮かんでいましたが、こうした海の風景にもサンフランシスコを感じさせるものがありました。)

ところで、水産加工については、ロシア人が経営、ロシア人のみを労働者として使う民間水産加工場が市内に一社あるのみとのことですが、その製品を見ると缶詰にする技術や冷凍技術はまだまだとの印象を持ちました。タラバガニが一杯4,000円程度で売られたり、キャビアの缶詰が一瓶3,000円程度で売られていましたが、缶詰製品生産技術や冷凍技術が向上すればもっと面白いビジネスが展開されるものと思われます。またその他の水産加工品は燻製や干物が多かったと思いますが、干物や燻製はまずまずの味でありました。

また、今やウラジオストックの中でも有名となった中古車市場を訪ねると、ここは日本車中古車のオンパレード、私の意識からすると、もう少し韓国製の中古車もあるのではないかと思いましたが、その多くは富山・伏木港から入る日本の廃車(一部高級車の中には盗難車もはいっているそうです。因みに日本の損害保険会社が昨年度支払った盗難車に対する保険支払金は500億円になっているとのことであります。)が、20〜100万円前後で多く売られていました。売買交渉はどうやらその場にいるディーラー達の自動車の中で行い、現金決済をしている人の姿も散見されました。

しかし、このように栄えるウラジオストックではロシア全般的な課題である金融機関の未整備は否めないようであり、銀行間決済にはやはり多くの問題があるそうです。

こうした状況下、例えば中国本土の人々はハバロフスクに中国工商銀行の出張所を開設し、ここでロシア貿易の多くの資金取引を扱うようにするなどの対応を取っているようであります。

このような状況を考えると、中国本土で生産したものをロシア経由で日本や第三国に輸出する際には物流は三国間貿易とするものの、決済は中国と日本、或いは第三国が直接行う形とし、ロシアの金融機関は関与させないほうが良いものと感じられました。

さて、ウラジオストックの庶民生活に目を向けると、自由主義体制でのビジネスをエンジョイする人々が多いせいか、通訳を通したロシア人のコメントを聞くと、社会主義体制からの転換を歓迎している声が圧倒的に強く、またそれを促したゴルバチョフ元大統領に対する評価はとても高いものでありました。更に自由経済の中でそれなりの生活水準を維持している人が多いものと見られ、中国本土から生活必需品を輸入したり、日本から高級品を輸入する、その反対にロシア・シベリア地区の木材や原材料、水産加工品などを輸出するという貿易ビジネスを推進する人々がそのビジネスと生活を満喫しているように感じられました。

こうした中、庶民の住まいは1LDKから5LDK程度のアパート(因みに1LDK・35平米のアパートは購入すると約4万米ドル、家賃では1カ月約25,000円の水準となっています)に住む人が一般的でありますが、最近では一戸建てのコテージを購入する人も増えてきているとのこと。また、良い職業に就く上からも教育に対する意識は高く、ウラジオストックでは大學進学率が約80%、一家族2人程度の子供に対して高い教育を受けさせようと努力する人が多いとのことでありました。

一方、自由都市としての雰囲気が拡大していることから、庶民の宗教に対する関心は急速に弱まっているとのことで教会などに通う宗教信者は少ないとのことでありました。


こうしてウラジオストックでの予定を終えた我々は三日目に中露国境を経由して陸路マイクロバスと列車、そしてまたバスと乗り継ぎながら、中国本土・黒龍江省・牡丹江市に入りました。

この間の距離は約350キロメートルとのことでありますが、ロシア国境の街では約2時間半待たされ出国審査、また僅か30キロメートルの鉄路を一時間半かけて中国本土に入り、また中国本土の入国審査、そして中露国境の新たな経済特別区を見学した後、東寧県で夕食、そして最終目的地である牡丹江に入りましたが現地時間の朝9時に出発し合計18時間の長い移動となりました。

途中の道路と鉄道に問題はなく、景色ものどかで、既に秋の花・コスモスなどが見られ心地よいのですが、手続きが大変なことと、それぞれで無駄な時間があり、この辺に課題を感じました。また、ロシア側は土地利用に活動的ではないのに比べ、中国本土に入ると隅々まで土地を利用しているといった印象を受けました。

一方、ビジネス面に目を向けると、ロシア側も中国本土側も中露国境での売買は盛んで、現在でもスイフンガという中国本土側の国境都市ではロシアビジネスがもたらす商売は統計に出ないものの約500百万米ドルはあるといわれているとのこと、そして、上述した東寧県に新しく出来、この9月18日に試験オープン、そして10月18日に本格オープンをする中露辺境貿易第一大市場東寧中露互市貿易区は、約30万平米の敷地面積を持つ経済特別区として建設されており、延辺朝鮮族自治区コン春と同様、ロシア人は重量50キロまで、中国人は3,000人民元までは関税が掛からずに貿易取引が出来るとのことであり、決済は現金決済が主流とのことであります。また既に中国本土側の施設は完成、約20平米1店舗の商店が6,000店舗はいる予定のうち、85%の入居が決まったそうで、そこは日本で言う「アウトレット・モール」+ホテル設備のようでありました。

ここへの店舗入居は1平米当たり10,000人民元を保証金として支払う必要があるそうですが、85%もの入居が決まっているとのことで、それなりの資金力を持った商人がロシアとの国境貿易で利益が上がるものと見込んでいる表れとも言えましょう。また、そうした中国人の見込みとしてはこの経済特区へのロシア人の1日平均来場者数は10,000人と見込まれているそうであります。

黒龍江省政府の重点プロジェクトにも指定されているこの経済特区が今後どのように発展していくかは大いに関心のあるところであります。

尚、こうした中国本土側のプロジェクト推進状況に対してロシア側の対応は遅れているとのことであり、ロシアが輸出をしようとする木材や水産物などの大市場は準備が出来ていないようで、当面はロシアと中国本土の相互貿易と言うよりは、中国本土のロシアに対する輸出が多く取り扱われるものと見られている点、留意しておきたいと思います。

さて、牡丹江に入ってからはいくつかの機関・企業などを見学しました。その様子を以下の通りであります。


(1)牡丹江新聞伝媒集団公司
東北のロシアと接する黒龍江省第三の都市である牡丹江では国有企業改革が進み、中小企業は803社のうち20社を残して全て、大企業も六社を残してその他の企業は民営化がなされており、市内の報道機関であるこの牡丹江新聞伝媒集団公司も放送権が国営化されている以外は、番組製作なども含めてその他の部門が民営化されている。傘下にはテレビ会社5社(デジタルテレビ会社を含む)、ラジオ会社3社、新聞社4社、出版社1社を中心としその他に教育関連、旅行、外資導入コンサルタント会社などを持つ、総合メディアコングロマリットとして発展している。
会長は40代後半と若いものの市政府の元幹部でもあり、また牡丹江市当局に影響力の強い人物として各所で活躍している。
(2)牡丹江新聞伝媒集団公司傘下日本語学校
新聞伝媒集団公司グループが経営する日本語学校であり、2004年6月に開校された。1期3ヶ月60人の学生達に対して日本語教育を行っている。
1ヶ月の学費は約400人民元、寄宿舎を保有しており、寄宿舎に住む者は1カ月約300人民元の生活費を加えて約700人民元を日本語学校に支払う形となっている。
この日本語学校に通う人材の多くは農村戸籍を保有する庶民であり、一応、一定の技術(例えばIT技術)を持った者が最後に日本語を研修、その上で実地研修生として日本に派遣されることを希望しているとの説明を受けた。
中国本土では全国各地に於いて三農問題解決の為にも農民の経済的独立を図る体制作りが必要不可欠であり、この牡丹江もまたその例外ではないことから、同集団公司ではこうした側面からも人材育成を行い、農民の雇用機会拡大の為に貢献したいとしている。
(3)ハオ月集団肉牛系列加工プロジェクト
中国本土第二位の肉牛販売シェア(全国シェア約10%、中国マクドナルドなどに食肉を納品している。)を持ち、1997年に株式会社化をし、総資産15.8億人民元、年商5億人民元、総従業員約2,000人を抱える吉林省長春ハオ月清真肉業株式有限公司が牡丹江で行っている北京・中央政府承認の牛のトサツ場建設計画の現場を見学した。
同トサツ場では生後24〜36ヶ月の牛を一時間に50頭、処理する予定となっており、処理後24時間に4度まで下げて冷凍する計画を持ち、米国・EUの安全基準の承認書類を受けた後に工場を正式稼動することとなっている。
今後は和牛の種も輸入、飼育して牛肉処理をしていく計画もあるとのこと。
(4)牡丹江児童福利院
牡丹江市・共産党が運営する孤児・障害者施設を見学した。1974年に開設された同福利院には現在136人の孤児・障害者が入院しており、知的障害や身体障害のきつい児童を除く約80人は通常の義務教育を受けているがその他の児童は同施設内で教育を受けており、また義務教育を終えた子供たちには専門教育を受けさせ経済的自立が出来るような指導を行っている。
(5)牡丹江市政府・常務副市長
牡丹江市政府では経済発展の為の各種製作を立案、実行しているが、今のところ、その経済的発展の為の注目プロジェクトはロシアとの貿易拡大にある模様である。
但し、こうしたロシアとの辺境貿易だけでは、ビジネス仲介によるメリットしか挙げられず、牡丹江市全体の発展には限界があり(実際に中露国境貿易経済特区の運営は香港資本など牡丹江域外の組織が投資・運営をする形となっており、地域経済の発展に対する影響力が小さいとの見方も示されていた。)、特に地域産業の発展と雇用機会の造成、税収の拡大には繋がらないとの考え方が市政府当局から示されており、こうしたことから、今後、
  • ロシアや北朝鮮も含めた北東アジア地域の原材料を集積し、牡丹江に於いて付加価値をつけた製品を生産し、大連、ウラジオストック・ナホトカ或いは牡丹江空港から輸出する、こうしたプロジェクトを推進するために外資を誘致する。
  • 日本企業のシベリア・北東アジアビジネス推進の為のパートナーとして牡丹江市、企業がその役割を果たす。
といったことが必要ではないかとの意見交換をした。
こうした一方、市政府では中小企業育成に相当注力している、或いは注力する意思があるものと思われ、例えば中小企業に対する融資拡大は不可欠であり、中小企業に不足している担保部分を補完するシステムを構築する準備を進めているといった発言があるなど、中小企業育成政策の推進に注力しているといったコメントがあった。(因みにこの地域では企業が金融機関に融資を申し入れる際には原則担保を要求され、また担保掛目は50%、即ち、100百万人民元を借り入れようとすると200百万人民元の担保を要求されるとのことで先進国の平均よりも厳しい担保を要求されている。)
この信用補完システムについては、詳細を担当者よりヒヤリングせるところ、担保余力の無い企業の財務内容や経営者の評価などに関する信用評価、当該借入に関するプロジェクトのキャッシュフロー分析等返済能力評価などを図る信用補完機関を市政府が設置し、その審査をパスした企業はこの信用補完借入実行時に保証を付与してもらい、金融機関はこの担保付与機関の信用力を基に融資を受けるシステムとなっているとのこと。(本来、金融機関自身がこうした信用分析を行わなければならないのであるが、人材不足並びに金融機関自身にまた不良債権問題が存在していることなどから、市政府が敢えて信用補完機関を設置し、牡丹江市の信用力を背景に優良借入人が推進するプロジェクトに対しては資金が流れるシステムを構築している。但し、どの程度、信用力を評価できる人材がその信用補完機関に存在するのかは不明。)
(6)牡丹江市内新規不動産物件視察
牡丹江市内中心部新設高級マンション、商業店舗の視察を行った。
商業施設はメイン道路に面した一等地商業用不動産物件で1平米4万人民元、一方マンションは約100平米の不動産物件で日本円に換算して約450万円、内装工事を含めると約750万円となるとのこと。
またビル管理費は1平米17人民元。
尚、当該マンションはまだ入居者数が一定水準に達しておらず、内装工事が終わった入居予定者であってもガス・水道などが配給されておらず、事実上の入居は遅れているとのこと。
牡丹江の不動産価格は昨年約20%上昇、これに対して人口増加率は約3%となっており、この数字から見ると不動産バブルの兆候が見られるが、今のところ、地場金融機関が不動産融資規制を示す可能性はないとのことで、地元の不動産関係者には強気の見方が根付いていた。
不動産開発については上海等の域外からの参入も見られている。
また不動産管理会社は現在約80社、このうち1社は香港系四川省企業となっている。
そして、不動産投資の期待収益率は現状では約10%といわれているとのこと。
(7)牡丹江市不動産管理局
牡丹江市不動産管理局は、市内中心部に位置し、不動産登記他牡丹江市の不動産関連手続きを原則ワンスットプで完結させる不動産交易センターを抱えている。

ここでは、外資の不動産投資も歓迎しており、不動産取得関連税他総コストは内国人と同待遇とし、一般物件の場合は取得価格の3%、ビジネス用物件の場合は取得価格の8%を適用、また大型案件については個別に優遇等も検討するとのコメントがあった。
(8)ダイヘングループ(大阪変圧器)牡丹江現地法人
同社は東北地域のみならず、中国進出日系企業の中でも成功企業として我々が範として注目すべき企業である。
ダイヘングループは1987年に当時の牡丹江国有企業に対して溶接機製造プラントを納入したが、これを一つの縁とし、同社が中国本土進出を検討した際に、この国有企業との合作を推進、資本金450万米ドル、出資比率日本側:中国側=60:40で牡丹江OTCを設立、1998年には製造・販売を開始、1999年には牡丹江OTCを単年度黒字に導いた当地日系企業の代表格にあり、現在の従業員は正規職140人と臨時職約10人規模の企業である。そして、牡丹江市の各種投資関連パンフレットには、牡丹江市VIP企業(VIP企業となると、警察に対する一定の治外法権が得られる、病院の厚遇、高速道路料金の優遇等の特典が与えられている。)としてその名前が記載されている。
また、日中合作案件には珍しくダイヘングループは中国側パートナーに対して現物出資を許さず、一部を除いて現金出資を納得させて合作会社を設立しており、更に中国側には非常勤役員の地位しか与えず、通常の経営に中国側が関与せぬ体制を最初から確立した上で中国ビジネス展開を開始するなど、こうした厳しいビジネス・スタンスがその後の現地経営成功の一つの大きな背景になったものと言える。
更に、2003年に起こった当地国有企業改革の影響で、資金繰りに苦慮した中国側パートナーより保有株式を売却したいとの申し入れを受け、高額とはなっていたもののその株式を全額買取り、同年11月には独資企業に転換をしている。(尚、株式買取時の資産評価は牡丹江市資産管理委員会の評価を受けており、その際にはDeal Breakしない程度のHard Negotiationを行った上で、資産価値を決定、当該株式を買い取ったとのこと。)
同社は当初、中国国内販売のみを志向してきたが、1997年のアジア通貨危機直後の現地オペレーション開始となったこともあり、全額国内販売により収入が人民元一辺倒となることを回避するため、輸出にも注力をし、タイ、インドネシア、欧州に製品輸出を拡大、現在その輸出比率は約40%となっている。
一方、国内販売は徹底した代理店販売を推進しており、現地法人会長自らが中国本土各地を歩きながらその代理店工作を展開し信頼関係を築くと共に、中国本土ビジネスの最大の課題とも言われている資金回収難を回避するため、代理店に対しても徹底した代金前受け形態を維持している。そして、特に代理店からの前受けによる現金回収に関しては、自社製品の品質の高さとアフターケアの保証を代理店に説得、また代理店契約期間を原則一年とするなどの条件を提示、その説得に応じたところから徐々に代理店契約を締結するというStep by Stepの地道な工作をした結果として確立されたとの説明があった。
また中国ビジネスの課題の一つとしてよく挙げられる人民元運転資金繰り問題については、進出当初より、事業の総採算性と社内に於ける牡丹江プロジェクトの位置・重要性を総合評価した上で、厚めの資本金送金を行うことに踏み切っており、この資本金を運転資金に活用しているとのことで、現在も無借金経営を継続している。更にまた現在、ダイヘングループは青島等中国国内に三拠点を持ち、Cash Management Serviceを活用しながら、この三拠点の資金を効率的に運用するという財務面での管理にも工夫をした経営を行っている。
また本社等中国国外に対する配当金送金や貿易決済を行う際に、為替予約を実施したいとの意向を早くから持ち、地元の中国銀行(Bank of China)に対して為替予約制度をいち早く導入させるなどの努力を行っている点も特筆されよう。
製品の原資材は当初はほとんどを日本から輸入していたものの、様々な意味での現地化を促進、現在の現地調達比率は約70%に達している。
技術開発部門、中国人人材育成部門についてもまた、中国本土で出来る限りのことを行うとの方針の下、上海や青島にある同社現地法人にてこれらを推進している。
同社は、上述したとおり牡丹江市のVIP企業にも指定され、また同社の所在する地域では同社のみが高度技術企業の認定を受けた後、「開発区」としての指定を受けるなど、当地ビジネスに於ける成功企業と言える。そしてその成功の秘訣について、牡丹江OTC会長が、
  • 徹底した内製化の推進が製造コスト面でのメリットを生み収益拡大に貢献していること。
  • 黒龍江省の素直でものづくりを大切にする心を持つ労働者、即ち、人材のよさが現地企業経営の円滑な推進に貢献していること。(因みに経営の円滑な推進を図る為、同社では設立当初より徹底した従業員の意識改革を進め、提案活動の推進とそれに対する褒章、失敗した際の厳しい対応など信賞必罰を徹底した結果、従業員の意識は着実に変わり、更にそうした従業員意識の変化が社会から注目されマスコミの取材を受けるようになり、それがまた従業員の意識改革を更に進めるという好循環に入ったことが、経営成功の大きな要因となったとのこと。)
とのコメントをされた点が大変印象的であった。
(9)江南地区開発地区と市政府ワンストップサービスセンター
牡丹江市では牡丹江南岸地域の開発を計画しており、この計画に基づき市政府庁舎も来年には江南に移転する予定となっている。
江南地域は現在まだ2社の入居しかなされておらず、また幹線道路と下水道の敷設が終わったものの、土地そのものの多くはまだとうもろこし畑となっており、本格的開発はこれからとなる予定。
牡丹江市政府は行政サービスの一元化を意識、行政手続きワンストップサービスセンターを設立運営しており、事務手続きが必ずしも容易ではない外資にとっても同センターを有効活用してのオペレーション開始や市政府外資誘致担当によるアフターケアなども期待できる状況となっている。
(10)牡丹江市基業紡織有限責任公司
同社は1999年に、1975年に設立された、総資産対比負債比率が126%となっていた国有企業を民営化して設立された完全民営化された民営企業であり、その後も、牡丹江地域の紡織企業3社、製紙企業1社を買収し、企業規模を更に拡大している。
年商1億人民元、総資産は1.58億人民元、納税金額は350万人民元、本社工場の敷地面積8万平方キロメートル、従業員数2,300人を抱える紡織・製紙企業であり、株主は経営責任者であり会長である林氏(朝鮮族であり、故郷は韓国忠清南道とのこと。また年に一回は故郷である韓国に墓参りに行っているとのこと。林氏はまた、もともとは市政府の人間であり、市政府が経営する企業のいくつかの経営に当るという経歴を経た後、民営企業に転じる前身である国有企業の経営責任者の座に座り、その際に民営企業化の計画が発生、従業員の圧倒的な支持と資金力、信用力を背景に、現在の民営会社の会長の座に就いた人物である。大変な苦労人であるが、人間味の厚い人物。そして、黒龍江省中小企業協会加盟約1,000社の経営者の中で僅か30人しかない理事に就任している。)が全株式の78%を保有、その他の22%は140人の従業員と外部株主4人が保有している。
経営者の自他共に選ばれた林氏は、当該国有企業の民営化に当っては、債務請負制を基に、78%の株式価値部分に当る20百万人民元を5年間で牡丹江市に支払うという契約で買収、その契約に基づき、昨年、既に牡丹江市に対して20百万人民元の納金は終了している。債務請負制のポイントは国有企業当時の債務の一部または全部を引き受ける形で返済しつつ、更に従業員の雇用を如何に守るかということにあり、同社の経営権を預かった林氏も労働集約的な産業である紡織業の効率化を図りながら雇用を維持、利益を確保しながらここまで発展してきたが、その限界を感じたことから、製紙企業を買収した上で、リイサクル紙を中心とする包装紙生産事業に入ることを決意、この段階で環境に優しいリサイクル案件ということで、当該プロジェクトが北京中央政府の目に留まり、国家重点プロジェクトの一つに指定され、同プロジェクトの総投資額81百万人民元のうち、60百万人民元を北京政府より補填を受けるという形で推進、残りの21百万人民元については、取引銀行である中国農業銀行より借り入れて昨年より推進しているとのことであった。
現在、製紙の売上高に占める比率は僅か1%であるが、2006年には製紙部門の年間売上高を8,000万人民元とし、そのシェアを40〜50%にまで高めていく計画がある。
また更に近い将来、同社が抱える4工場の敷地にある遊休地部分を中小企業の発展の為に生かしていきたいとの意識の下、社内に中小企業専用のインキュベーション施設を設置したいとの計画も示されている。
インフラが整っている同社がインキュベーションを開設するのであれば、牡丹江進出を計画する日系中小製造業は先ず、ここに進出、その上で江南地区などに新設される予定の大規模工業開発区に巣立っていくことが一策ではないかとの印象を持った。
こうして、牡丹江での調査を終えた後、私は団を離れて北京に入りましたが、北京では尊敬する旧知の仲間達と昨今の中国情勢、日中関係、そしてアジア情勢更には広く国際情勢全般に関する意見交換、情報交換を行いました。
様々な意見や情報が飛び交いましたが、この中で、ここで特筆すべきは、
  • 中国本土の外交政策は姿勢を貫くべきところは貫き、譲歩すべきところは譲歩するというしたたかな戦略に出ており、こうした姿勢の下、例えばEUとの関係緊密化、ロシアとの国境確定とその背後にある資源確保の確定、インドとの国境確定の為の準備拡大、マレーシアとの関係強化などの動きが見られている。
  • 日中両国民による心情面から見た日中関係の悪化が懸念される中、日中関係は更に悪化する危険性を孕んでいる。
  • 中国側の歴史認識や事実認識の正確さ、深さに比較し、一般の日本国民の対中認識の薄さ(例えば、中国が借款を返済していないと誤解をしている日本人が知識人にも多く、大きな誤解を持って中国を見つめる日本人は意外に多い。)は今後の課題である。
  • 人民元為替問題については、明らかに政治決着であり、経済的な効果を考えるのであれば10%の切り上げが必要、逆に中国本土情勢を中心に考えれば、切り上げは不要との見方が出来る。(尚、カナダ・カルガリーで記者会見をした中国本土の中央銀行である中国人民銀行の周小川総裁は当面、人民元の再切り上げは考えていないと発言しています。)
といった意見が出ていたことでありました。


以上が今回の「紀行文」であります。
今回もエキサイティングな現地調査をすることが出来ました。

来月もどうぞよろしくお願い申し上げます。

以上
 
愛知淑徳大学ビジネス学部
教授 真田 幸光


真田先生のプロフィール

真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京 三菱銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ド レスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。

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