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2005年10月[Sanada発 現場から]


「FTA交渉」

FTA交渉の歴史的推移
私が大學の頃に習った内容からすると、
「国際貿易というものは、国際スタンダードに基づき、多国間交渉と多国間共通のルールの下でマルチ主義に基づいて発展されていく方向にあり、現WTO(=世界貿易機関、World Trade Organization)による決定とその運営方針に従って、貿易は更にスタンダード化していくであろう。」
と言われていたかと思います。
そして、日本はこうしたマルチ主義を前提に国際社会の中で貿易立国として活躍している文字通り優等生であるとも学びました。
しかしながら現在の国際貿易の実状を見ると、日本は、マルチ主義を標榜し、これを遵守するが故、FTA(Free Trade Agreement)については、むしろ消極的であったと言え、これがFTA交渉に於いて日本が中国本土に比べてやや遅れを取っている一つの背景ではないかと私は見ています。
ご高承の通り、国際社会は利害関係者が多いことを主たる背景にしながら、なかなか進展せぬ多国間交渉に痺れを切らすかのように、二国間交渉の方向へと走り始め、更に、2002年11月に中国本土と東南アジア諸国連合(ASEAN)が包括的経済協力枠組み協定を締結したことによって、これを契機に二国間交渉を優先する国家が更に増加、日本もこれを境に二国間交渉を積極的に推進すべきであるとの認識に大きく方向変換し、大きく政策の方針変換を図ったと言えましょう。
従って、良いか悪いか、失敗したか否かは別にして、上述したような経緯から見ると、日本はFTA交渉を中心とする二国間貿易交渉については出遅れていると考えておくべきなのであります。

[二国間交渉中心に転じた現在のFTA交渉]
それでは、現在進行している「FTA」を基軸とした二国間貿易交渉に課題はないのでありましょうか?
私はFTAにはいくつかの問題があると考えています。即ち、
(1) FTA交渉から除外された国家が、公正なる国際貿易の機会を失う危険性が出てきていること。
(2) FTA交渉の中では、関係両国が互いに自国産業の保護を目的とした規制を設ける可能性が高く、結果的には公正なる貿易拡大を阻害する危険性があること。
などがその弊害の筆頭として挙げられるのではないかと思います。

 私が学生時代に学んだWTOのルールには、
「無差別に貿易を自由化していくことこそ世界経済に大きなメリットをもたらすはずである。」
との精神が組み込まれており、更には、ダンピング反対、知的財産権保護規制の制定等々、国際的な貿易ルールの見直しや貿易紛争の解決システムの確立などの具体策が国際的に一気に実現されるといった期待もあったはずなのでありますが、こうした精神はきちんと反映されておらず、開発途上国と先進国の思惑、先進国同士の駆け引きの中で、多国間協議の良さは忘れ去られ、相互利益を容認し得る国家同士が先ずは小さなアライアンスを組み、リングを作りながら、この小さなリングを繋ぎ合わせて大きなリングとする、即ち、ここで事実上の国際スタンダードを構築していこうとする動きを示していると考えなければなりません。

[中国のFTA交渉に見る巧みさ]
 そして、こうした視野から見ると、WTOに加盟しつつ、先進国との交渉や先進国の思惑をチェックしつつ、自らはアセアン、CIS諸国、中近東、アフリカ、中南米、そしてロシアも念頭に入れながら多くのリングを構築しようとする中国本土の動きは、将来的には、
「貿易と投資に関する国際ルール、国際商習慣の、事実上の“中国スタンダード化”を導き出すような潜在性もある。」
と私は見ており、ここに中国本土の経済外交の真の戦略性を感じます。
 それではここで最後に、東アジア諸国とのFTA交渉に於ける日本の関心事をいくつか確認しておきますと、
* 鉱工業製品については原則、全品関税撤廃を要求する。
* 投資・サービスの自由化とルールの国際化・先進国化を要求する。
* 知的財産権の保護強化を要求する。
* 政府調達への公平・透明な参入機会を与えてもらえるように要求する。
などが主要関心項目となっており、逆に東アジアから日本に対する要求を見ると、やはり農林水産業分野の各種障壁撤廃要求、人材受け入れ機会の拡大などが日本に対して突きつけてきているものと思います。
 そして、互いの関心事に接点がなかなか見られぬことから、交渉の進展は予断を許さない状況にあると見ておくべきではないでしょうか。

 これに対しては、中国本土は一旦、大国であることとまだまだ様々な分野でのものとサービスを国内で吸引する余力があること、そして現在、外貨資金繰りポジションが潤沢であること(一説には公表されている外貨準備高に加えて国内国有企業などが保有する外貨をプラスすると約1兆米ドルの外貨資金が中国本土にはあるとの見方もあります。)などを背景に、
「ブラックホールのようにものとサービスを吸い込んでいる。」
と見られ、自らよりも弱小と見られる国家に対しては、この過程で細かな規制などについては要求せず、むしろ懐を広げてこれら国家を飲み込み、その上で各種スタンダードと「人民元」という通貨のスタンダードを広めた上で、先進国との交渉に入ってくるものと考えられます。
 そして、本年である2005年7月20日、中国本土とアセアン10カ国は、かねてより合意していた物品の包括的関税の引き下げを正式に実施しました。
 中国本土はこの交渉でも、アセアン諸国10カ国を原加盟国6カ国とベトナム、カンボジア・ラオス・ミャンマーの三グループに分け、更にまた各国別にセンシティブ品目、高度センシティブ品目を指定して、これらをマトリックス化し、11カ国の当事者とその国内情勢に合わせて合意に至る「最大公約数」を見つけ、その合意と本格的な運用に入る事に成功するなど、そのリーダーシップと戦略性は相当程度高いものと見ておくべきではないでしょうか。

(因みに、中国本土にも東南アジアにも拠点展開をしている日系企業にとってはアセアンに於いては安価な中国製品が流入すること、域内での原資材調達が拡大するであろうこと、特に中国本土の工場とアセアンの工場の連携が取りやすくなることなど様々な角度からこの中国・アセアンFTA本格始動のメリット・ディメリットを考え、対応していく必要が出て参りましょう。)

 こうした意味で、日本も一旦、細かいことを言わずにマーケットを更に拡大、国土保全費といった補助金ではないような様々な名目を付与しながら、必要に応じて国内の農林水産業の保護を図ることを前提に、一気にFTA交渉の進展を図る必要があるのではないでしょうか。
さて皆様は如何、お考えになられますか?

 来月もどうぞよろしくお願い申し上げます。

以上
 
愛知淑徳大学ビジネス学部
教授 真田 幸光


真田先生のプロフィール

真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京 三菱銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ド レスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。

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