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2006年1月[Sanada発 現場から]


「韓国経済見通し(定性分析)」

 昨年末は韓国の首都・ソウルを訪問、韓国政府関係者、大企業元役員、韓国系銀行幹部、ヤングビジネスマン、そして庶民を対象に色々と情報収集して参りましたが、今回感じた印象を以下のように纏めてみました。
 定性分析であり感じたことを羅列しただけのものでありますが、皆様がお持ちの定量分析結果や計量データなどと合わせて、皆様方の韓国情勢分析の一助となれば幸いで御座います。

  • 韓国経済を概観すると、今年は景気が悪かったものの、来年は対外要因が改善し、本年対比で見ると景気好転の可能性は高いと見る声が中心であった。(因みに、韓国政府発表などを見ると、2005年度のGDP成長率は3.8%程度に留まるものの、2006年度は約5%の成長が見込まれています。)
  • 但し、韓国経済好転の牽引車は内需ではなく輸出部門であり、こうしたことから見ても、対外要因に左右されやすい経済体制は変わってないことが懸念されるとコメントする声が依然として強い。特に、こうした外需の好調が内需にまで拡散していくかどうかについては疑問の余地ありとの見方が意外に強い。
  • また、その対外要因については、(1)国際原油価格の高水準維持の悪影響(2)円高・米ドル安に再び転じるとの見方が強いものの、この通りに為替相場が動かなかった場合の悪影響の可能性(3)中国本土経済の成長減速による悪影響の可能性(4)米国経済が本当に底堅い動きをするのかに対する不安感(5)拡大する政治不安問題に対する海外の目が厳しいことから発生する不安感(6)北朝鮮問題をはじめとする外交的課題に対する不安感(7)対米関係悪化による悪影響の可能性など、不確定要因が山積しており、景気回復を確実視するという見方よりは期待も含めた見方となっているものと感じられる。
  • 一般庶民の中には皮膚で感じる景気回復はほとんどないとコメントする者が多く、中流以下の庶民の不満は拡大を続けている。
  • そうした中で最も関心が持たれている点は、貧富の差の拡大と二極化の更なる進展(=悪化)にある。
  • そして、富裕層が更に富裕層となる中、日本の若手投資家のような韓国にも比較的早く登場し、主要企業をいきなり買収しようとする動きも出るのではないかとの意見も聞かれた。私も全く同様の意見を持っており、例えば企業公開がきちんとなされ、上場の歴史と市場での安心感が高い三星グループ企業や旧態然とした一部マスコミなどがそうした買収ターゲットとなる可能性もあると見ている。
  • 不動産バブルは8.31不動産対策が実効性を見せぬ今も残っており、富裕層はその資金力をフル活用し更に資産価値上昇を背景とした利益を上げ、中流層以下は借財を増やしながら生活用の不動産を購入するなど、貧富の差拡大の最大の背景となっている。
  • 韓国の消費が回復トレンドあるとの指摘があり、その通りであるとの見方も出ているが、その反面、再び個人ローンを受けながら消費拡大を図る個人も多いとの指摘がなされている。例えば韓国では現在海外旅行がブームとなっており、中国を中心とする海外ツアーが増大、ゴルフツアーとのパッケージ商品がよく売れている、そして2005年は年間10百万人を超える海外旅行者数となる見通しであるとのことであるが、金融機関からのローンや頼母子講のような民間金融を利用した形で資金を調達・確保しての海外旅行や消費の増加となっているケースも再び増加しているとのコメントが示された。
  • 因みに最近では、旅行者のみならず、子弟を海外に留学させたり、短期研修・留学に出す親が増えており、家計に負担が出ても子弟にこうした海外生活をさせようとする親が増えているとのことであった。そして、最新のニュースでは留学中の子女を現地で世話する両親は、来年から海外での不動産購入が簡単になる模様である。財政経済部が検討しているものであるが、こうした一方、これがまた高所得層の資産海外逃避に繋がるのではないかとの厳しい目があることを注視しておきたい。
  • 中長期的な視点から見ると、韓国経済の不安点の一つに少子化・高齢化が上げられ、そのスピードは日本より速いと考えられるが、例えば韓国では相対的に見て生涯雇用システムが定着していると言われている現代重工業などを例に見ると、向こう数年で大量退職者が出現する予定であり、日本のいわゆる2007年団塊世代問題が韓国の大企業でもすぐに発生するような状況となっている。
  • 経済政策だけを見てもノ・ムヒョン大統領のリーダーシップの無さを指摘する声が大変強い。
  • 朴チョンヒ元大統領が構築した韓国経済発展のシステムを、全ドゥファン元大統領以下現在のノ・ムヒョン大統領までの歴代の大統領が食い潰してきており、その付けが国民の生活レベルの二極化、多くの庶民の生活悪化に繋がっているとの声が一般庶民には強いものと思われる。
  • そうした意味で、国民に対して将来の夢を与え、更に新たな経済発展の基礎・システムを構築できるような人物が次期大統領にならないと、一般国民の困窮は更に続くものと思うとする声が、やはり一般庶民の中には強い。
  • 政治外交面に目を向けると、ちょうど東アジアサミットが修了した直後のタイミングであったためか、韓国の東アジア外交の基軸は中国本土に置くべきだとの声が強かった。
  • そうした中、韓国のアイデンティティを守りながら、関係国との協調体制を如何に構築していくかに関する韓国政府の明確な戦略がない点が問題であるとの不満が多いとのコメントが多々あった。
  • 東アジア地域に於いては、地域のリーダーシップを取り得るリーダーオブザリーダーが存在しておらず、そうした状況下、各国のリーダーがナショナリズムの方向に向かい始めており、韓国もそうしたやや利己的なナショナリズムの渦の中に巻き込まれ、地域混乱の一つの火種にすらなる危険性があるとの醒めた、しかし客観的な意見も聞かれた。そして、北東アジア地域のカントリーリスク(紛争発生リスクを含む)はむしろ高まっているとの見方がハイレベル層に見られた。
  • 韓国では東西ドイツの統一にも見られるとおり、統一コストの大きさと負担の重さを背景に事実上の早期統一は難しいとの見方が出ているものの、北朝鮮の現政権が崩壊すれば6ヶ月間で少なくとも5百万人の難民が韓国に流れ込むとの見方をしており、北朝鮮に対する融和姿勢を韓国政府が採り続けなければならない難しい背景が存在しているとの指摘が示され、日本や米国もこうした韓国の立場や考え方を理解して欲しいとの意見が示された。
  • 韓国国民、特に若年層の目に見えぬ反日意識は日本人が予想している以上に強いと日本人もっともっとしっかりと認識しておくべきであるとの声が多々聞かれた。こうした状況は中国本土も同様であり、従って、日本人がノ・ムヒョン政権が交代すれば韓国の対日外交姿勢が好転すると短絡的に考えるのは大きな間違いであるとの指摘がなされた。
  • 韓国民の多くが耐えることを忘れ、権利だけを主張し、その背後に義務が存在していることを忘れてしまったという指摘が多く聞かれた。そしてその典型として見られている現象が「示威」の多発にあるとの見方がなされている。
  • 私立学校の経営者が不正を働いたりしていることを背景に私立学校に対する経営規制強化の法案が提出され、韓国国内では話題を呼んでいるが、私立学校の経営には宗教法人が関与しているケースが多く、これら宗教法人が改めてノ・ムヒョン政権に対する反発姿勢を強めている。
  • 韓国社会の家庭崩壊は予想以上のスピードで出ており、女性の社会進出と経済力向上の中で今後、離婚の増加や教育問題などの社会問題を生む大きな火種となっているとの意見も聞かれた。
  • アジア通貨に対して韓国通貨・ウォンが強含みとなっており、東アジア域内でウォンがそのまま使える地域が増えていることに対して、韓国国民の自国に対する一種の自信といったものが強く示されるようになってきているとのコメントも聞かれた。
  • 韓国では国境線の街・開城の工業団地造成を加速化させており、事実上の監督・管理は韓国側が行っているということを密かに示しながら、この開城にて生産された製品は「事実上韓国産・Made In S.Korea」であると主張しており、こうした延長線上で、日韓FTAに於いても開城産製品は韓国産として扱うように求めている。筆者はかつてより、日韓FTAについてはその背後にある北朝鮮も意識すべしと主張してきたが、いよいよ韓国側からはこうした動きが現実に示されるようになってきたと言えよう。但し、筆者の認識では、今のところ、米国が開城産製品を韓国産としては扱わないとしており、現状では日本にとって実害は出ないものと考えている。

 私はアジア通貨危機直後にIMFから韓国に派遣されていた米国人が韓国の将来に関連して、「現在(1997年、1998年現在)の混乱は少なくとも向こう10年は続くであろう。」との認識を示していたことを記憶しており、また当時はそんなに混乱が長期に亘るのかと疑問を持ってこれを聞いていましたが、こうして見ると、韓国社会の混乱が少なくとも2007年まで続いても不思議ではないと最近では感じています。

 尚、アジア開発銀行(ADB)が最近発表した、韓国も含めた東アジア各国の2006年度経済成長率見通しは以下の通りとなっています。
出所:ADB 単位:前年対比%
韓 国 5.0
中国本土 8.9
フィリピン 4.8
タ イ 5.0
ベトナム 7.6
カンボジア 6.1
ラオス 8.0
マレーシア 5.3
シンガポール 6.0
インドネシア 5.9
東アジア新興開発国平均 7.2
 一方、韓国国内では下記データに見られるとおり、
「企業の経営状況がやや苦戦となっている一方、消費は改善傾向が強くなっている。」
との見方が出ている点も注目しておきたいと思います。

[時価総額50大企業の売上高・純利益推移] 単位:兆ウォン 出所:朝鮮日報
  1〜3月 4〜6月 7〜9月 10〜12月
売上高 95.98 95.91 99.55 112.73
純利益 9.93 9.99 11.81 10.18

[主要百貨店12月(1〜15日)売上高増減率]
 単位:% 出所:朝鮮日報
ロッテ +33.0
現 代 +15.2
新世界 +30.3

[ビーシーカード/最近四年間の10・11月使用額推移]
 単位:兆ウォン 出所:朝鮮日報
2002年 2003年 2004年 2005年
10.25 8.67 8.63 10.15
またこうした状況下、株式と不動産価格が共に上昇しソウル総合株価指数は1,500ポイントを超える可能性がある不動産価格も2005年対比上昇、金利も上昇するとの見方が太宗となりつつあるとの見方が強いこともご報告をしておきたいと思います。

新しい日韓ビジネス、経済関係が今年はどのように推移するのか、皆様方と共にその可能性を追求したいと思います。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

以上
 
愛知淑徳大学 ビジネス学部・ビジネス研究科
教授 真田 幸光


真田先生のプロフィール
真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京 三菱銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ド レスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。
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