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2007年4月[Sanada発 現場から]


「ものづくりに生きる国、日本のあり方」

 

 このマガジンの読者の皆様方の多くは「ものづくり」に携わっていらっしゃり、そしてそれに誇りを持っていらっしゃることと思います。
 そして、文科系出身の私も「ものづくり大国・日本」の意味や価値を理解しようと常に努力しております。

 ところで、私のアジア・ビジネスの原体験は古く、1984年、韓国・ソウルに東京銀行の語学研修生として初めて海外赴任した際、赴任早々に、著名な米国企業の米国人・韓国首席代表から、
「米国はこれから発展するアジア各国の動脈(=基幹産業分野であるインフラ、情報、通信、金融など)に注射針を入れていく。その先兵部隊として米国企業はアジア各地に進出、各国のシステム、ルールを作る段階からコミットしていけるようにする。
 こうして入り込んだアジアが、予想通り、発展すればそこから血(利益)を吸い取る、もしアジアが米国に抵抗するような姿勢を示せば、注射針から毒(国際ルールに基づいた規制)を盛り、各国の(米国にとっての)アンコントローラブルな成長を規制することになろう。」
との主旨の話を聞いたことにありました。
 当時は漠然とこの話を聞きましたが、その後の米国の国際戦略に見られるアジア経済戦略は正にこうした動きとなっているのではないかと思います。

 さて先日も中小企業関連の企業団体、そして私がお世話になっている、防衛省にも製品を納品するほどの高い技術を持っている中堅企業の工場見学、政府関係者やいわゆる識者と言われる方々、地方自治体の職員の方々、大手金融機関の役員さんや部長クラスの方、大学の先生、マスコミ関係者、NPOの方々など、多くの人々との議論を致しましたが、今後の日本のあり方、目指すべき国家像については、皆さん一様に、
「日本は“ものづくり大国”を目指すべきである。」
と仰います。  
  私もこの点、Quite Agreeであり、絶対にそうあるべきであると思います。  
  それでは、“ものづくり大国”とは何か?
  それは、色々な表現の仕方はあるにしても、その内容としては、
「労働者が額に汗をしてものを作り、倫理観的に間違っていない、世の中が必要としている物を、よい品質で、安く作り上げ、その結果としてディファクト・スタンダードを構築し、その中で日本の存在意義を世界に知らしめ、大和魂を世界に浸透させていくことにある。」
ということになるのではないでしょうか?(皆様方のお話を総合し、その共通項のエッセンスを纏めてみると、少なくとも私はそのように私は定義ができると考えています。)  
  そして、こうした理念と意識を持ち、日本という国家を運営していくことに、私は大賛成であり、更に理想的な表現を加えるとすれば、
「最低限の社会基盤が構築されているとの前提の下、努力した人にその成果が正当に分配されるというシステムが整っている“ものづくり大国・日本”」
の構築を目指していくべきではないかと私は考えています。

 しかし、ここで気に掛かってくるのは、冒頭、申し上げました米国の基本戦略であります。  
  日本が“ものづくり大国”に徹する中、米国を軸とした世界の既得権益層(大航海時代から発展し、世界の利権の胴元を握っている影の富裕層・権力層)は、例えば、ものづくりに関連しては、
「世界の既得権益層自身がまずは資源、エネルギーの利権を先ず確保、これを牛耳った上で、ものづくり大国・日本に基礎技術とエネルギー、そして原材料を分け与え、これで世界が必要とするものを生産しなさいと事実上の指示を出す。」
とのシステムを作り、それを日本がきちんと実行すれば、その見返りに、日本に対する安全を保障し、一定の富を付与するという仕組みが日米間では既に相当程度構築されていると私は見ています。(こうした見方からすると、このままの状態が続けば、日本がいくら高い技術を持っていても=高い技術を持っているからこそ、必要とはされるでしょうが=、日本国自身は原材料とエネルギーが十分に確保できないが故、日本は体のよいものづくりの為の奴隷国家と化してしまうのではないかとの危惧を私は感じています。)  
 更にまた、日本は国際経済社会の中で見ると、第二次世界大戦後の世界経済の根幹をコントロールし得る国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD)、世界貿易機関(WTO)の主として三つの主要国際機関のルール作りと管理に従って、国際社会の法と秩序を遵守するという精神の下で、日本経済の基本運営がなされており、日本という国家は、これら三つの機関の背後にある世界の既得権益層や米国との共生を旨としている、或いはそうせざるを得ない状況にあると私は考えています。

 そして、こうした状態について、
「米国との信頼関係に基づいた共同戦略であり、日本はその中で繁栄を享受してきているのであるから、そして今後も享受できるのであろうから、現状の“ものづくり大国”構想に従って日本が国家運営を図っていけば、日本という国家も日本国民も平和と繁栄を享受し続ける。」
との考え方があり、私もこの点を全く否定はしません、が、しかし、世界各国が常に「覇権」による安定か「均衡」による安定(とその間に繰り返される不安定)の歴史を繰り返す中、唯一の超大国・米国に対抗するような形で、最近では中国本土が経済力も含めて台頭、またロシアが復権、更にかつて国際経済社会で活躍した経験のあるインドも活発な動きを示す中、これら三カ国が、「ハードの中国、ソフトのインド、原資材とエネルギーを持ち軍事的高度技術を持つロシア」によるCHINDIAR連合の動きが垣間見られるようになり(但し、中国本土の衛星爆破実験の後、中ロ間はやや微妙な関係に後戻りしているとのロシア専門家の方の見方をお聞きした点は付記致しておきます。また、中国本土との紛争の歴史があるインドも中国本土の軍備拡張には最近でも強い懸念を示している点、私もしっかりと認識しています。)、米国を軸に推進されてきた「資源メジャー」「食糧メジャー」創生についても、これら三カ国が介入してきており、米国の覇権による世界の安定から、力の均衡による世界の安定に向かう兆しがあると考えられ、日本がいつまでも米国にのみ依存していてもよいのかとの疑問が私自身には出てきています。

 そして、日本の隣国にある大国・中国本土は、従来の強い軍事力、政治・外交力に加えて、最近の経済成長(人口13.1億人=世界第一位、GDP2兆2千億米ドル=世界第四位、経済成長率四年連続二桁成長=先進国レベルのGDP規模の国家では第一位、貿易規模1兆7,700億米ドル=世界第二位、外貨準備高1兆663億米ドル=世界第一位、自動車生産量700万台=世界第二位、造船1,452万DWT=世界の20%シェア、粗鋼生産419百万トン=世界第一位、R&D投資3,000億人民元=GDPの1.4%、金額基準で見て世界第二位となっている等々といった経済実績と成長)を背景に、「ものづくり大国・日本」に対抗するかのように、「国際経済面」の視点からは、
「世界の工場大国」
を目指し始めており、その為の明確な国家戦略を持ち、動き始めていると私は見ています。(こうした見方について、真田はやや誇大に表現しているとの指摘も受けましたが、私は全く誇大化しているとは思っておりませんし、またその位の危機感を持って日本という国家は中国本土の動きをフォローしていく必要があると考えています。)

 ご高承の通り、ある組織が戦略を立てる際、

組織としての理念を打ち立てる。
中期的なビジョンを明示する。
内部分析と外部分析を行い、しっかりと現状認識をする。
その上で課題を抽出、その課題を克服するための戦略を課題ごとに掲げる。
そして克服すべき課題に優先順位をつけ、それを解決するために最も効率的な戦略代替案を選定する。
その戦略を実行する。
定期的に戦略実行状態をチェックし、現状認識へと戻って課題克服状況を確認していく。

というロジックと実行が必要とされますが、中国本土の経済政策は、軍事・外交政策と上手にリンクする形で、計画経済の下、上述したとおり、

「世界の工場大国(理念)」を目指し、
「2008年、2010年の北京五輪、上海万博までに国家の経済的近代化を図り、インフラを整えると共に、一般庶民の世界水準で見た最低限の生活レベルを構築するという国家方針(ビジョン)を内外に示し、
内部分析に於いては、格差の拡大と三農問題等々、外部分析に於いては資源・エネルギーの安定確保問題と技術力の向上問題、その為の人材育成問題などの様々な課題があるとの認識(現状認識)を示し、
これらを克服するために、三農問題と格差是正を目的とした地域活性化策を西部大開発政策などの中に示し、また外交戦略の中で、資源・エネルギーの安定確保のためのアフリカ外交を南々協力の中で展開したり、技術力向上のための海外業買収の動きを中国本土独自、或いはロシアやインドと連携して実施したり、海亀派と呼ばれる海外に流出した中国人頭脳を呼び戻したり、日本や海外のOB人材を上手に活用するといった様々な個別戦略の具体化を図り(戦略代替案の抽出)、
そして、これを実行、フィードバックをして、戦略の効果を高めていく。

ということを明確に実施しており、隣国・日本にとって、注目しなければならない存在となってきています。  
  そこで、こうした様々な状況を意識した上で、わが国・日本は、その国家戦略として、上述したような“ものづくり大国”をきちんと前提とした上で、国家としては(一つ一つの民間企業、組織ではなく、日本国としては)、

米国が真の同盟国であると言うのであるならば、日本政府は米国政府と協調して、改めて、資源・エネルギーの共同開発を行うという政府間の共同指針を一旦作成、この方針の下、日米企業の共同作業による具体的な資源・エネルギー開発を行い、山元の一定の権利を確保、これを更に日本と米国に安定的に持ち込む輸送ルートも含めたシステムを構築する。そして、そのパイロット・プロジェクトとして「尖閣諸島開発」を取り上げ、この問題を日中間の領土問題から国際社会の資源開発問題に置き換えた上で日米を軸としたしっかりとした開発を行い、日本としての利権を米国と共に確保するといった個別戦略の成功事例を打ち立てる。そしてその成功事例を基に各地、各種の資源・エネルギー開発を米国との協調で行っていくという基本戦略を打ち立てる。
有限といわれる化石エネルギーの代替エネルギーとして当面実用化が期待されているのは、やはり原子力であるが、日本としては、その技術の先進性が期待されている核の再利用技術を更に強化する、従って、国内の世論や批判の障壁があることを知った上で、改めて、「もんじゅ」などの核エネルギー再利用技術の実用化に向けた研究に、国家として、徹底的に資金と人材を投入するという戦略を打ち立てる。
また、必要に応じて、日本が、技術的に優位性があると言われてる「水素エネルギー」の開発も視野に入れた戦略を立てる。これらにより、エネルギーの対外依存度を少しでも減らす努力を行う。
人間、生物が生きていく上で最も重要な物質である、また今後、世界的に見ると大きな課題となると見られる水資源の関連技術開発に注力する。ここでは、単に日本の水をボトルに入れて販売するといったものではなく(この分野は、ビジネスライクに見て可能性があるのであれば民間企業に任せる)、水の浄化技術、水資源を利用した砂漠の緑地化技術といった付加価値の高い水資源関連技術の開発に国家として注目し、そうした技術開発に注力する機関、企業を物心、資金の側面から支援、それを国家の財産として蓄積、日本の国際戦略の中に生かしていく。
今後も世界的に見ると人口が増加すると見られている地球社会に於いて、やはり食糧問題の解決は不可避の課題であり、日本も食糧関連技術の開発に注力をする。そこで、ここでは主食となる「穀物」に先ずは焦点を充て、例えば品質を維持しながら、その生産量を増やすことが出来る品種改良と栽培技術の開発に関する支援を図る。(私の関与しているところでは、アグロミクスという米栽培技術を既に研究、一部商用化がなされていますが、この種の研究開発に対する支援を図る。)そして、そうした技術開発に注力する機関、企業を物心、資金の側面から支援、それを国家の財産として蓄積、食糧安全保障に繋がる技術支援を行い、日本の国際戦略の中に生かしていく。
石油を源とする高機能素材の開発やとうもろこしなどの植物を原材料とする新素材の開発、そして日本国内に有する資源を原材料とする新素材の開発などに対する支援を拡大、原材料の輸入比率低下を目指す。
通関荷物にタグをつけて管理・監視をするという日本企業が得意とするハードとソフトの組み合わせによる通関システムの電子化推進スキームを構築、これを世界のスタンダードとし、同盟国・米国と共にこの通関情報の総括管理を日本が行う。
日本企業が得意とする、道路交通網監視システム、ビル管理システムの海外展開を、国家として背後でこれを支援、その管理している情報を日本のホスト・コンピューターに集約し、各地の道路や主要都市の物流、人の動向を自然体で監視できるシステムを構築していく。
アジアで想定される自然災害を念頭に、災害情報とその事後管理と復興を支援するシステムを構築し、アジア各国社会の中に日本のシステムが自然に導入される仕組みを構築する。(因みに私が関与している組織としては、日本災害医療支援機構=JVMAT=があり、こうしたシステムを海外に伝授していくことを意識しています。)
そして、最後に資金の流れを管理する東アジア開発金融機構を常駐機関として設置、この中で国家を越えて東アジア地域が共同して開発すべきプロジェクトを抽出、東アジア全体で地域開発に努める仕組みを構築し、この中で「円」の域内に於ける役割を拡大すると共に、上述したような日本の技術ノウハウがよりスムーズにアジア地域に浸透していく組織を構築するために日本政府として最大限の努力をする。そして、こうした結果として、各地のプロジェクトを推進していくに必要な製品を日本から輸出すると共に「ものづくりノウハウ」を世界に伝播していく。(因みに、こうした組織を創設するためのたたき台として、私は他の方々とご一緒に北東アジア開発銀行構想という提案を東京財団から発表させて戴いています。)
といった具体的な動きを示すべきであると私は考えております。

 そしてもし、私が総理であれば、こうした考え方に基づき、上記の各項目のFeasibilityを、国家戦略の視点からより正確に捉え、その実現に当って予想されるコストを試算、その上で、個別企業、研究者など固有名詞を選出し、そこに集中的に資金と人材、必要物資などを追加投入し、具現化のスピードアップを図ることを行うと思います。  
  更に、世界のパワーバランスを意識、米国との関係が軸であるということを前提に、国際社会の中で必ずしも大国ではないが、技術力が高く、資金があり、国際社会に於ける情報ネットワーク網を既に構築している国家であり、地理的にも上手に分散している、スイス、イスラエル、シンガポールの三カ国との総合関係を強化し、日本の国際社会に於ける地位をきちんと差別化し、日本の「良さ」(悪さは当然に捨てて)を世界に伝播していくことが必要ではないかと考えています。  
 皆様方は如何お考えになられますか?

 

今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
以上
 
愛知淑徳大学 ビジネス学部・ビジネス研究科
教授 真田 幸光


真田先生のプロフィール
真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京三菱UFJ銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ド レスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。
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