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2007年7月[Sanada発 現場から]


「日中韓に見られる外資系ファンド牽制の動き」

 

最近では中国政府が、外資による中国国内企業買収に対する規制を強めていることが各所で報道されています。
即ち、こうした報道は全国人民代表大会(全人代)常務委員会で審議中の独占禁止法の草案の中に、
「外資による企業買収が“国家の安全”に関わる場合、中国本土政府による審査が必要になる。」
との条文が盛り込まれるといったことなどの法的な対応が中国政府から示されていることを受けたものと言えましょう。
外資による中国国内企業買収に対する規制を中国政府が強めている背景には、中国では昨年から、外資による企業買収が国有資産の流出や市場独占につながるとの警戒感が増大していることなどが挙げられています。

そして、例えば、米大手投資ファンド、カーライル・グループは2005年10月に建設機械大手、徐工集団工程機械(江蘇省)の買収に合意、その後、批判を受けて過半出資を断念しましたが、なお当局から認可が下りていない一部業種の基幹企業が外資により買収され、国家経済の安全が脅かされるとの懸念が高まっていることを受け、全国人民代表大会常務委員会の第二回審議にかけられる独占禁止法草案に、上述したとおり、
「外国資本が国内企業を買収する際、独占禁止審査を行うほか、関連規定に基づき、国家安全審査を行う。」
といった文言が盛り込まれているのであります。

中国政府筋によれば、近年外国企業の対中直接投資に変化が見られ、国内企業を買収する形で中国進出を図る傾向が出てきており、2004年以前は買収案件が外資の対中直接投資に占める割合は5%だったが、2004年には同比率が11%、2005年には20%に迫っており、一部の多国籍企業や投資ファンドは中国の一部産業の重点企業を買収しているとの見方が強まり、ファンドによる投資などに対する強い反発が見られていることは注目しておくべきでありましょう。
一方、韓国でも次のような外資に対する批判の声が強まっています。
即ち、韓国国内の資産を相次ぎ売却し、韓国から投資資金を引き揚げた米国系ファンドのローンスターは、税金を支払わずに撤退するものとみられるとの批判が出てきているのであります。
こうした見方の背景には、ローンスターが保有していた、極東建設株、スターリース株(旧ハンビット与信専門)、外換銀行株13.6%などを総額2兆1,523億ウォンで売却、約1兆5,000億ウォンの売却利益を得たが、租税条約に基づき韓国では一銭も税金を支払わない可能性が高まったことに対する不満が韓国国内では高まっているのであります。
こここで一旦事実関係を確認しておくと、まず、国税庁によれば、ローンスターは外換銀行株をLSF‐KEBホールディングス、極東建設株をKCホールディングス、スターリース株をHLホールディングスといったベルギー法人を通じて保有、売却しましたが、これらの株売買では「ベルギー法人が韓国で株取引をした場合、ベルギーが譲渡差益に対する課税権を有する」と規定したベルギーとの租税条約に基づき、韓国政府は課税権を行使できないことになっていることから発生するものであります。

韓国の国税庁関係者は、
「このままではいられない。課税できる方法を探る。」
とコメント、ローンスターの韓国法人、ローンスターコリアが極東建設株売却で重要な役割を果たした韓国国内の固定事業者(支社)であることを立証し、ローンスターを国内居住者とみなし課税する方法を検討していますが、こうした動きを法的にとることは容易ではないとも見られています。
そこで、韓国政府ではローンスターのように巨額な譲渡差益を得ても税金を支払わないといった問題を防止するため、
「租税条約を利用した租税回避行為に関する対応をまとめる。」
としており、今後はこうした動きに拍車が掛かる可能性も高まっていると考えられます。
先のG7会議ではドイツが示していたヘッジ・ファンドに対する規制に対して日本を含む先進国は、その具体的な監視措置についてあまり議論をしませんでしたが、上述したように、中国や韓国から外資に対する規制の枠がはめられようとしていることに対しては、日本としても、今後は一定の関心を払っていく必要があるのではないかと私は考えています。

ところで、こうした中韓の動きが見られる中、日本でも最近、一つの大きな動きが見られました。
即ち、米国の投資ファンドであるスティール・パートナーズは、日本の食品関連企業の老舗の一つであるブルドックソースの株式を大量に取得、株主として合法的に経営戦略に関する主張を行ってきましたが、これに対してブルドックソース側が強く抵抗、買収防衛策を発動したとして、その差し止めを求めた仮処分申請を行いました。
そして、今般、その即時抗告審が行われましたが、今回、東京高等裁判所は、スティール・パートナーズ側の申し立てを既に却下している東京地裁決定を支持、スティール・パートナーズの抗告を棄却しました。

今回の東京高等裁判所の判断では、
「スティール・パートナーズを濫用的買収者と認定する。」
とし、これが大きな判断ポイントとなりました。
これにより、今後の動向次第では、日本で初めて新株予約権を使った防衛策が発動されることとなり、その場合には、スティール・パートナーズの持ち株比率は現在の約10%から3%以下になる見通しであります。
更にまた、日本経団連は、こうした買収防衛策などをめぐって投資ファンドと日本企業の攻防が相次いでいることに関連、
「株を買い取って高く売りつける乗っ取り屋的な動きは、結局は企業価値を高めず、企業を疲弊させる可能性がある。
従って、ある程度の規制があってもいい。」
との認識の下、ファンド規制が必要であるとの認識を示唆しています。

こうした状況下、スティール・パートナーズ側は、
「今回の東京高等裁判所の決定は予想外であり、対応は全くの白紙である。」
とし、今後の同社の対日戦略の見直しも検討されるのではないかと予想されています。
私自身は今回の裁判所の判断根拠を精査していませんが、各種報道を見ると、日本の司法当局は、
「日本の商習慣や法体系、これまでの投資家と企業の関係などに於いて、今回のスティール・パートナーズの動きを濫用的買収者として認定した。」
ものと思われ、よってここには私の見るところ、再びスティール・パートナーズが異議を唱える余地がある、しかしそれでももし、司法当局がこうした判断を曲げず、日本型のスタンダードによる判断を続けていくのであれば、スティール・パートナーズを含めた外資系投資家が日本から資金を引き上げていくといった形で、今後、対日戦略の見直しを行ってくることもあると予想しています。

そしてそれはまた、私にとっては、1997年のアジア通貨危機の際に、外資系債権者が、東アジア全域に対して、
「アジアには縁故主義的資本主義を中心とする固有の商習慣やルール、経済システムがあり、外資にはリスク対比リターンを判断しにくい。
よって、一旦、保有する債権を合法的な権利の下で手仕舞いする。」
として資金を一斉に引き上げた事態を思い出させるものでもあります。
従って、今後、日本や韓国、中国が外資に対して上述したような判断の下で動くのであれば、
「外資系ファンドの資金がある程度、アジアから流出していくことを想定した上で、アジア地域で余剰となっている資金をアジア域内で運用していく。」
ことが出来るようなシステムを再構築し、日本型、アジア型スタンダードに慣れている日本やアジア人投資家に対して、もっと域内資金運用を積極化してもらえるような方策も併せて検討していく必要があるのではないかとも考えています。
そしてまた日本やアジアは、外資のスタンダードをそのまま受け入れる必要もなく、外資の保有資金の大きさによる横暴に屈する必要もなく、しかし、外資を含めて世界の投資家と日本やアジアの投資家がEqual Footingでフェアな投資が出来るように、市場の体制を整備していくことが今、最も必要なことではないかと私は考えています。

 

今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
以上
 
愛知淑徳大学 ビジネス学部・ビジネス研究科
教授 真田 幸光


真田先生のプロフィール
真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京三菱UFJ銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ド レスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。
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