日刊工業新聞様のご配慮で今年に入り先月まで三ヶ月間、「真のものづくり大国を目指して」というテーマで毎週の連載をさせて戴きました。
日本という国のあり方をしっかりと見つめなおさなければならないこの大切な時期に、あの永田町での大混迷は何を意味し、将来の日本にどういった影響を与えるのか、私は大いに不安を感じています。
しかし、これも根源を見ると、私たち国民が選択をしている道、私たち自身が色々と考えなければなりませんよね。
そういう意味で、日本の将来を考えていくとき、資源小国であることから「人」の問題に突き当たります。
そしてまた、食糧や原材料の量と価格の安定確保も国家の大きな枠組みを支えていくポイントとなると思います。
―スキルの前に心の教育―
さて、4月に入り私どもの大学でも入学式を終え、先日、私の学部の新入生・約300人を連れ、伊勢志摩でオリエンテーション、そして一泊をした後、本田技研鈴鹿工場の見学をさせて戴きました。
本田技研の技術の高さと組織力の強さを改めて感じた工場見学でありましたが、今回はそのことよりも何よりも大変恥ずかしい思いを致しました。
実はこの工場見学の際、先ずは講堂に於いて、本田技研の方からのパワーポイントによる説明とビデオによる事前勉強を終えた後、実際に工場を見学させて戴いたのですが、その講堂での説明会の際、私は新入生たちが私語をせぬよう、注意をして学生たちを見ておりました。
そして、今回は幸いにも私語も少なく、静粛に学生たちが本田技研の方の説明を聞いておりました。
ところが、しばらくすると本田技研の女性社員の方がさっと学生たちの中に入り、うとうとしていた数人の学生を見つけ、起こして回りました。
そしてその後、私のところにいらっしゃり、
「先生、今日は研修ですよね?」
と厳しい一言。
とても恥ずかしい思いをしました。
いえ、違います。
学生が恥ずかしいのではなく、私自身が恥ずかしかったのです。
私も多いときには週に三回ほどの社会人向け講演会をしたり、企業での社内研修会の講師をしたりしており、その中で社会人であっても数人は途中で転寝をされることもありますので、とにかく、新入生たちが先ずは静粛に聞いていればと心の中で油断をしていましたが、
「そうではない!!
そんな甘い学生を社会人として送り出さないでください!!」
と、この本田技研の社員の方に頭をがつんと殴られた思いがしました。
この方のご指摘の通りです。
私はすぐに帰路、新入生たちに、このやりとりを説明した後、
「社会ではこうした見方をされる。
それを君たちも改めてしっかりと受け止めて欲しい。」
と伝えました。
人に、社会人として生きていくうえで大切なことを伝えていくことの重要さと難しさを改めて感じた研修でありました。
―サブ・プライム・ローン問題の行方―
今年最大の経済的関心事は、やはりサブ・プライム・ローン問題でありましょう。
この余波を意識、背景とし、国際通貨基金(IMF)は、今年の世界経済見通しを3.7%に下方修正しています。
またこれは、2002年の経済成長率3.1%以降、最低の伸び率となっています。
IMFは昨年10月に、2008年の経済成長率見通しを4.8%と予想していましたが、今年に入ってから1月に続いてすでに2度目の下方修正を行っており、サブ・プライム・ローン問題の悪影響の読み違いがこうした結果になっていると思います。
こうしたことからも、今回のサブ・プライム・ローン問題については、その各国金融当局も市場関係者もまだ把握しきれていないとは思いますが、その損失総額が97兆円程度となったと発表されていること、追加的な融資支援が発表されたこともあり、少しずつ改善、米国・大統領選挙も控えている状況から、年後半には、少なくとも一旦は収束すると考えておきたいと思います。
―原材料価格高騰の余波は広がる、韓国も同様の苦しみ―
さて、韓国の大韓商工会議所は、全国の製造業500社を対象に行った「原材料価格の高騰に伴う影響についての実態調査」の結果を発表しましたが、これによると、最近の原材料価格の高騰が「すでに忍耐の限度を超えている」と回答した企業が51.6%に達し、また、今後「5%までの価格上昇なら耐えられる」という回答は16.4%、「10%までなら耐えられる」は22.2%となっていると発表されています。
一方、原材料価格の高騰を受け、企業が取っている対応策としては、「他の部分で原価節約を図っている」という回答が33.6%で最も多く、また、4社中1社は「原材料価格の高騰分を製品価格に転嫁する方針」と回答しており、原材料価格の高騰が物価に与える影響が次第に大きくなるとみられると分析されています。
こうしたことから、大韓商工会議所は、
「原材料価格の高騰に対処するため、政府の政策課題として、企業に対する税制・金融面での支援の拡大、政府の原材料調達のシステムの改善などが求められる。」
とコメントしている点も留意しておきたいと思います。
世界的に見ても原材料の高騰は問題となっており、世界のものづくり国家には特に影響が大きいものと思います。
こうしたことからも、やはり、世界が共通して必要とする基本原材料については、
「実需原則」
を徹底していくことが、国際社会には必要ではないでしょうか。
そしてまた、こうした一方で、このような重要な原材料の代替新素材の開発にも力を入れていくべきであると思います。
そうした意味で、日本は新素材の開発大国として世界からも注目されており、産官学が連携をしてこれを推進、世界に貢献すると共に適正利潤を上げ、その開発した企業の利益と共に国益にも結び付けていくべきであると考えます。
そして一言、Confidentialityの問題もあり、ここでは内容は全くお伝えできないのですが、今週は自動車部品などの素材にも使える素晴らしい新素材を開発された熱きベンチャー企業経営者の方とこれを支援されている学者、行政の方々とお会いしました。
やはり日本の技術者の方は凄い!!そして産官学連携の力が出てきていると文科系の私は改めて感じました。
―食の安全保障についてー
一般的には、
「独立国家である以上、国民の最低限の生活を守る政策を政策当局は採る義務がある。
そうした意味で、独立国家政府は国民全体を守るための経済的独立を維持できる国力を持つ、国民の安全を守る防衛力を保有する、国民の消費する水を確保する、国内で消費する最低限の物品を確保するといったことに努力を払うとともに、国民が消費する最低限の食糧を安定確保することに注力する義務がある。」
と考えられます。
これが、いわゆる、
「国民の生命・財産を国家が守る。」
ということに繋がるわけであり、それが出来るか出来ないかは別にして、そのための努力をすることを国民は政府に対して強く望むものであると考えます。
こうした状況下、日本国内でも国際的な穀物価格を中心とする食糧、食品価格の高騰と中国産食材の毒入り事件問題もあり、
「食の安全保障」
に対する関心が高まっていると思います。
そして、例えば農林水産省では、国産食糧の再普及、消費拡大を目指して、
「国産食品の利用に対するポイント制導入による普及再拡大案」
などが検討され、国産食料の消費拡大に対する具体策も見られており、私は大いに注目をしています。
ところで、今般、韓国農村経済院のデータを見ておりましたら、「経済協力開発機構(OECD)加盟国加盟国の穀物自給率」と題した報告書の中で(注:ここで示す「穀物の自給率」とは、各国国内における穀物(飼料・加工用・燃料用を含む)の生産量を消費量で割った数値であり、よって数値が小さいほど穀物自給率が低いことになる。)、
「OECD加盟国の穀物自給率(2003年現在)を比較したところ、韓国は25.3%で、30カ国中26位、最下位のアイスランド(0%)が北極圏の島国という特殊な状況であることを考慮すれば、27位の日本(22.4%)とともに韓国は、OECD加盟国で最も低い水準となっている。
一方、フランス(329%)、チェコ(198.6%)など13カ国は自給率が100%を超え、穀物の生産量が消費量を上回っている。
また、農地の面積が小さい一方、所得が高く人口も多い中国本土・日本・韓国が、米国やカナダなど少数の輸出国を相手に穀物の輸入をめぐる競争を展開している状況にある。」
とのコメントに接しました。
こうした韓国側の分析を見ていても、外国の食糧調達先確保を急ぐ必要性は当面はあるものの、やはり抜本的な解決策としては、国内の穀物自給率、食糧自給率を高める努力を日本としても続けていかないと、韓国や中国本土との競争となり、結局最終的には、日本国民に高い食料を買わせなければならない、更に最悪の状態となると、国民の一部に食糧を確保できない者が出てくるといった事態も出てくる可能性は高まります。
文字通りの国土保全と国内食糧生産の向上の為、農民、民間の努力を前提として、私はこの食の安全保障に対する「税金の利用拡大」を図ってもよいのではないかと考えています。
皆様方は如何、お考えになられますか?
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