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2016年1月[Sanada発 現場から]


[拡大する中国本土の力]

 今年はじめのレポートもまた中国に関してお話をさせてください。
 私の見るところ、国際情勢の風はどうやら中国にとって追い風が吹いているように思います。
 その発展著しい、そして最近では日本のどこ、ここでもよく見る中国人を抱える中国についての私の思いを以下に書いてみました。
  少し重いお話となっていますが、ご一読ください。

はじめに
「原油は何故1バーレル当たり何米ドルと表示されるのか?」
「金は何故1オンス当たり何米ドルと表示されるのか?」
「鉄鉱石は何故1トン当たり何米ドルと表示されるのか?」
 筆者が銀行員として、1990年に中華人民共和国(以下、中国)とのビジネスに関与し始めた頃、しばしば中国人のビジネス・カウンターパートから、こうした質問をされた。
 当時の筆者にしてみれば、
「基軸通貨は米ドルである」
と言うはっきりとした概念の下、主要な国際商品の建値が米ドルとなっていることは至極当たり前のことであり、
「何故、中国人はこうした疑問を持つのであろうか?」
と筆者の方がむしろ疑問に思ったものであるが、今にして考えると、彼らが疑問を持つことは自然である。
 そして、こうした意識を長い間、持ち続けてきているからこそ、中国人は、チャンスが到来すれば、じわじわと、しかし、出来ると思ったところからは、可及的速やかに、
「世界の主要なものやサービスの建値を人民元に変えてくる可能性は高いと見ておくべきである。」
と筆者は考えている。
 もう一点、中国人と仕事をしてきて強く思うことの一つに、
「嘘も百回言っていれば本当になると中国人は考えている。」
と揶揄されるほど、中国人は既成事実化をすることに高い関心を持ち、また、それに長けている。
 南シナ海の人工島建設問題を見ても、各国の再三の懸念表明にも拘らず、自らの主張を取り下げず、
「言った者勝ち、やった者勝ち」
的な行動を繰り返した挙句、
「これは軍事利用とはしていないから、非難をしている国々の懸念は、単なる杞憂に過ぎない。」
と嘯く外交姿勢を見ていても、中国がじわじわと既成事実化を図り、結果として、ディファクト・スタンダードを作り、自らの影響力を拡大して行くことが上手いことがお分かりになるであろう。
 米国もこうした中国を、少なくともこれまでは食い止めることすら出来ていない。
 さて、このように筆者が認識する中国は、今後、
「通貨を通した覇権」
を如何にして拡大して来るのであろうか?

覇権と中国
 中国はしばしば、国際社会に対して、
「中国は、覇権を意識していない。」
と主張する。
 しかし、その中国の現在のリーダーたる習近平国家主席は、2014年半ばに、中国国内はもとより、世界に対して、
「米国を除く」
とわざわざ前置きをした上で、
「アジアの国々でアジアの新しい秩序を構築したい。」
とのスローガンを掲げる。
 即ち、現行の世界秩序の変更を自らが推進したいとも宣言した訳であり、その延長線上では、
「その新しい秩序を司る覇権意識」
と言ったものが見え隠れしており、
「中国が覇権を意識していない。」
と言うコメントを俄かには信じ難い、否、信じてはならないであろう。
 それでは「覇権」とは何か?
 辞書によれば、
「覇権とは、特定の人物または集団が長期にわたってほとんど不動とも思われる地位あるいは権力を掌握すること」
と定義されるが、これを筆者の言葉に直すと、
「人々が生きていく為に必要なもの、つまり、水、食糧、エネルギー、原材料の中核を先ずはコントロールする。
 その上で、それらの資金決済、即ち、通貨、国際金融の側面からお金を掌握する。
 ここで先ず、平和理での覇権の掌握が完成する。
 しかし、こうした平和理での秩序に基づく覇権は、武力によって一瞬にして崩壊してしまうリスクを抱える。
 そこで、覇権の完成に於いては、必ず、軍事的覇権を握らなくてはならない。」
と言うことになる。
 言葉を変えれば、実体経済、国際金融、そして、軍事力の視点から権力を持てるようにしていかないと、覇権は握れないことになる。
 そして、中国が現在、
「実体経済の世界に於いてば、世界貿易のトップの国となり、貿易関係国を拡大してその影響力を強めている。」
と言うことは間違いない。
 軍事力に関しては、実際に戦って見ないとわからないと言う側面がある中、確実に言えることは、
「中国は、今後の軍事力を左右する、制空権ならぬ、制宙権を意識して 、宇宙開発では、決して米国やロシアとは連携せず、単独での推進を図っており、こうしたところに、やはり、覇権意識が見え隠れする。
 一方しかし、これまで、国際金融の世界に於いては、中国は、閉鎖的な金融・通貨政策を取り、国際金融社会では単なる構成員の一つでしかなかった。
 しかし、ここに来て、強くなった「実体経済(例えば、「表1」のような視点から見た米中比較を参照賜り度い。中国の力量を数値からも確認戴ける筈である。)」を背景に、将来の軍事的覇権も意識しつつ(尚、念のため、米中の軍事力比較を「表2」に示す。上述したように、軍事力は、実際に交戦して見ないと真の実力は分からない。しかし、比較で見る限りは、米国の質での比較優位が見られる。)、一気に、
「通貨を意識した覇権争い」
に名乗りを上げようとしていると見てとれる。
 筆者は、これを、
「中国・人民元の大いなる野望」
と呼ぶ。

表1 米中実体経済比較
出所:両国政府機関、関連国際機関のデータを基に筆者が作成
期:特段の記載がない限りは2014年
括弧内は世界順位

 
米国
中国
 
国内総生産(兆米ドル)
17.3(1)
10.4(2)
 
人口(億人)
3.2(3)
13.7(1)
 
輸出規模(兆米ドル)
1.6(2)
2.3(1)
 
輸入規模(兆米ドル) 
2.4(1)
2.0(2)
 
貿易収支(兆米ドル)
-0.8
+0.3
 
外貨準備高(兆米ドル)
0.4(5)
3.9(1)
 
電力生産(百万kwh)
4,047,766(2)
4,768,317(1)
但し2012年
粗鋼生産(百万トン)
87(3)
779(1)
但し2013年
造船受注量(千総トン)
200(12)
32,057(1)
 


表2 米中軍事力比較
出所:日本外務省データなどから筆者が作成

 
軍事費予算GDP比(%)
2012国防予算
2012兵力
米国
3.8
6460億米ドル
138.2万人
中国
0.4
46億米ドル(中国大使館の資料)
1228.5万人


通貨覇権を握る意味

 筆者は、良いか悪いか、正しいか正しくないか、は別にして、戦いを挑む際には、弱点を無くしてからその戦いに挑まないと苦戦をする、或いは敗北する可能性が高いと認識している。
 弱点があれば、必ずそこを相手に浸かれるからである。
 そうした視点から、中国は自らの弱点が国際金融・通貨にあることを認識し、通貨覇権を意識して、自国通貨・人民元の国際的地位向上を目的に、基軸通貨群入りを急いでいると筆者は考えている。
 それでは、基軸通貨入りを図り、通貨覇権を図る意味は一体何であろうか?
 その点をここで読者の皆様にはご説明せねばなるまい。
 それを知る為には、現在の基軸通貨を握る米国が如何なるメリットを享受しているかを眺めれば一目瞭然である。
 基軸通貨とは、端的に言えば、
「世界のものやサービスの経済的な価値判断基準」
であり、この結果、世界の主要なものやサービスの単価となる建値は基軸通貨で表示される。
 そして、自ずとその決済も基軸通貨で成される比率が高まる。
 従って、世界のものやサービスの決済を預かる国際的な金融機関はその決済資金を基軸通貨で多く持つこととなり、その決済資金の調達や運用の安全性の高さや効率性の高さを求める結果、そうした基軸通貨の決済資金は決済資金を最も多く持っている国、即ち、基軸通貨の発行国に置くことになる。
 こうして世界の主要な資金は基軸通貨国に置かれ、基軸通貨発行国は、必要に応じて、こうした世界の主要な国際的な金融機関の決済資金を、基軸通貨国の法に基づき、モニタリングも出来るようになり、更に必要な場合には、これを差し押さえることすらも出来るようになるのである。
 そして、この権利=覇権を、今は、「現行の基軸通貨発行国である米国」が握っているのである。
 因みに、実際に米国はこの重要な権利を行使し、国際テロの資金に関するマネーロンダリングのモニタリングをしたり、また、それを見逃した国際的な金融機関に対しては米国法に基づいて制裁を加え、巨額の罰金まで徴収しているのである。
 こうした権利こそが、通貨主権の一つの主要な本性であり、世界のものやサービスの動き、そして、その延長線上にある人の動きまでも管理・監督が出来る権利を基軸通貨発行国は持てるようになるのである。
 中国は、こうした米国が持つ通貨主権に挑戦状を叩きつけて来ているのであり、じわじわと、しっかりと時間を掛けて、米国から通貨主権を奪い、相対的有利な地位を獲得しようとしているのである。
 ここで俗の表現をする。
 もし、中国のこうした野望が中国の思惑通りに進展していく可能性が高いと意識すれば、世界は、
 「米国と言うお釈迦様の手のひらの上で動くのが良いのか?中国と言うお釈迦様の手のひらの上で動くのが良いのか?」
と言う判断を迫られると言うことにもなるのである。
 そして、実体経済の世界では中国と言うお釈迦様の手のひらの上で動くことを嫌がる11カ国が米国との連携を強める姿勢を一応示した。
 それがTPPの大筋合意である。
 しかし、これとてもまだ、合意は大まかなものであり、真の勝負はこれからであろう。
 そうした中、今、国際金融の視点から見て、市場が注目していることは、
「人民元のSDR構成通貨入り」
のである。
 SDRについて、ここで詳細に説明する余裕はない。
 SDRは、通貨ではなく、国際通貨基金(IMF)の出資金の単位であり、通貨ではないが、国際金融市場では、SDRの構成通貨に認定されることは、その認定された通貨が、
「基軸通貨」
としてのお墨付きを貰えたことに等しいとされる。
 これまでのSDRの構成通貨は、米ドル、ユーロ、日本円、そして英国ポンドであり、人民元は入っていなかった。
 従って、人民元が、その構成通貨の認定を貰えたことから、人民元は、
「基軸通貨の仲間入りを果たした。」
と言うことになったのである。
 本来、SDRの構成通貨となる為には、主として二つの条件があり、先ずその一つ目は、
「世界の主要な貿易大国であること。」
となるが、これについては、中国は既に世界第一の貿易大国であり、適格国である。
 しかし、もう一つの条件である、
「金融制度の自由化、市場化」
と言う点に於いては、全く不適格であり、だからこそ、米国や日本は中国の人民元のSDRの構成通貨入りは時期尚早であると主張して来た。
 しかし、ここに来て、現行の国際金融秩序を米国とともに支えてきた英国が、人民元のSDR構成通貨入りを容認する姿勢を示唆したことから、これが現実となった。
 つまり、
「人民元の基軸通貨群入りとなった。」
と言えるのである。
 こうなったことから、中国は間違いなく、
「意図的」
に中国が影響力を行使できる国際商品やサービスの一部から、建値を人民元に切り替えてくると筆者は見る、そして決済を人民元に誘導、結果として、上述したようなことを背景として、世界の主要な資金が中国に集められていき、中国は米国と同様に、或いは米国に取って代わって、
「世界的な通貨覇権」
を握ることとなるかもしれない。
 中国は間違いなく、そうした野望を持っていると筆者は見る。
 そして、早くも欧州復興開発銀行(EBRD)と中国が連携することとなるという事態も顕在化し、中国の金融面での国際化は更に進展することは間違いない。

さいごに
 筆者が尊敬する、日本の学術界の中国研究第一人者は筆者に対して、中国のことを、
 「一国主義的に思考し、二国主義的に問題を追及、その上で多国間主義的に振る舞う。」
と称した。
 実に言い得て妙なる表現である。
 そして、筆者は、中国は正に今これを実践していると見ており、その中国に追い風が吹いているとも感じている。
 しかし、このままで良いのであろうか?
 米国までもが、この中国を抑えきれぬのであろうか?
 米国は今、中国政府がこの8月に中国経済に対する刺激策として輸出促進を意識した、意図的な人民元の切り下げを断行したことを一旦許したが、人民元の基軸通貨化を狙う中国の意図を見抜き、人民元に売り圧力を掛け、基軸通貨としては恥ずかしい水準まで人民元の為替レートを落とそうとするかの如く動き、これを嫌がる中国政府は、為替介入をして人民元を守ろうとする、その結果、中国の外貨準備が通貨防衛の為に使用され、その残高を減少させようとしており、米中の通貨覇権を意識した小競り合いがこうした動きの中に垣間見られる。
 しかし、軍事的衝突を回避、また、世界経済の牽引車としても一定の依存をせざるを得ぬ中国に対して決定的な圧力を与えることは、現行の最強国、米国とても出来ないであろう。
 それでは、我が国・日本はどうすべきか?
 筆者の答えは極めて単純である。
 最強国・米国はもとより、今後、更に強くなるかも知れぬ中国とも決して喧嘩をしてはならない。
 しかし、日本としての尊厳、アイデンティティを失ってもならない。
 よって、日本は、
「米中を含む世界が強く必要としているものやサービス、かつ、可能な限り、日本しか提供出来ないものやサービスに絞り、これらを量と価格を安定させて世界に供給し続ける国となること。」
を推進し、世界が真に必要とする、しかし、あまり目立たぬ国となり、世界の底辺、就中、実体経済の底辺を支える国を目指して、真のものづくり大国となっていくべきではないだろうか。

 引き続き宜しくお願い申し上げます。


 
以上
 
愛知淑徳大学 ビジネス学部・ビジネス研究科
教授 真田 幸光


真田先生のプロフィール
真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京三菱UFJ銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ドレスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。
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