[はじめに]
現行の世界にはたくさんの不安要因が潜み始めており、
「現行の世界秩序」
に変化を齎すかもしれません。
特に、相対的には力を落とす米国と、相対的には国力を増強する中国本土を見ていると現行の世界秩序の変化が現実的に起こるかもしれないと言う感覚を持つ人々が世界に増えつつあることも事実かと思います。
こうした中、米国トランプ新政権は、
「米国第一主義」
を掲げつつ、米国の威信復活に出てくることはほぼ間違いありません。
これを受けて立つ中国本土は、
「一旦は、米中協力による世界秩序の維持を図りつつ、しかし、将来は米国の弱体化を見て、虎視眈々と中国本土覇権の確立を目指す。」
といった動きを示してくるのではないかと思われます。
そして、欧州の混乱が拡大すれば、米中はそれぞれ、その欧州をどのように取り込むかに注力を注ぐ可能性もあり、就中、英国を巡り、米国が英米関係を確認するのか、中国本土が信頼に基づく新たな英中関係を構築しようとしてくるのかも注目されるのであります。
このように、国際情勢は米中を軸におうしゅうがこれに絡む形で大きく変化していく可能性を秘め始めていますが、その米中の影響を強く受ける韓国も大きく揺れ動く可能性も出てきます。
そこで、韓国は韓国の概況を眺めてみたいと思います。
[既得権益層に対する社会の不満]
現行の社会システム、秩序に対しては、その社会秩序の中で、自らの実力で権益を拡大している人はもとより、既得権を親兄弟親戚や近い人間より引き継いでいる人々も、一般的には、
「現行の秩序維持」
を希望しているものと思います。
逆に、現行の社会秩序に於いて、一向に既得権を得られぬ者、拡大できぬ者は、自らの実力のあるなしに拘らず、一般的には、
「現行の秩序転換」
を希望しているものと思います。
米国に於いても、現行の社会秩序に対する底辺の不満は高まり、昨年の大統領選挙では、どの候補が最も現行の社会秩序を転換してくれるかを意識しつつ、
「相対比較」
でトランプ候補を選出した人々が相対的には多かったとも言え、既得権に対する不満や批判は、アジアなどの新興国に限ってあるものではないと思われます。
しかし、それでも、私の認識しているところでは、例えば、韓国国内では既得権益層がその既得権を親兄弟親戚から踏襲して権力を相続していくことに対しての不満が庶民層の中には極めて強くあり、こうしたことが背景にあって、財閥批判や政治家に対する不信感が拡大しやすい状況になっていると、私自身の約35年の韓国とのビジネス経験を通じて感じており、こうした韓国庶民の意識は、上述した米国庶民の既得権益層に対する不満や不信よりも更に強いものと感じています。
さて、こうした中、韓国の企業経営評価サイトである「CEOスコア」は、米国の経済誌であるフォーブスが毎年公開している株式長者のうち4か国の上位40人ずつ計160人について分析した結果を公表していますが、その中での注目コメントは、
「昨年末の時点で韓国は40人のうち25人(率にして62.5%)が“相続長者”であった。
これに対して、米国の“相続長者”は40人のうち10人(同25%)、日本は12人(同30%)、中国本土は1人(同2.5%)となっている。
また、160人全体で見ると、自ら創業して一代で財を築いたのは112人同70%)、“相続長者”は48人(同30%)となっている。」
というものであります。
改めて、韓国のこうした既得権益層に対する不満や不信感の強さが示された報道であると見ておきたいとも思います。
[現行の韓国情勢概況]
さて、上述したような韓国の既得権益層に対する意識も踏まえつつ、先ずは韓国の政局をチェックしてみたいと思います。
私たち外国人には知名度の高い、昨年末に国連事務総長の任期を終えて退任した潘基文氏が、韓国に帰国しました。
そして、帰国早々記者会見し、
「謙虚な気持ちで私心のない決定をする。
その決定には長くかからない。」
と述べ、近く次期大統領選への立候補を表明する考えを示唆しました。
予想通りの動きでありますが、
「韓国の中では既得権益層にある。」
と映る同氏が一般庶民にどのように評価されていくのか注目すべきであり、中国本土や北朝鮮寄りの政策運営をするのではないかと見られる「文候補」との選挙での一騎打ちを想定していくと、潘基文氏は必ずしも有利ではない(むしろ不利かもしれない。)との見方が出てきています。
こうした点では、大統領選挙がいつどのような形で実施されていくのか、今後の韓国の政治スケジュールをしっかりと見ていく必要があります。
こうした動きが政界には見られる中、朴大統領の任務を代行している黄首相は、米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の韓国配備について、
「北朝鮮が昨年1年間だけで核実験を2回、弾道ミサイルを24発発射し、技術も高度化させていることを考えれば、北朝鮮の核・ミサイル開発は韓国にとって明白な脅威であり、これ以上THHAD配備を先送りできない。」
と述べ、早期配備の重要性を国民に対して訴えています。
更に、米国のトランプ新政権については、
「多様なチャンネルを通じて早期に関係が円滑に進み、両国の発展に寄与できるような努力を続ける。」
としており、韓国が米国から離れ、中国本土にすり寄る可能性が、文候補の勝利となれば、次期政権ではあるかもしれないとの見方が韓国内外から出る中、黄首相としては、国民の一部に米国に対する不信感がある中にあっても、
「米国との一定の信頼関係を維持する。」
との姿勢を明確にしていると見ておきたいと思います。
そして、その米国は韓国経済に対してやや厳しい見方を示していると私は見ています。
例えば、米国のシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)のグッドマン首席研究員は、韓国経済が直面する3つのリスク要因として、
・米中貿易戦争
・米ドル高進展
・為替操作国指定の可能性
を挙げたと報告されています。
また、グッドマン主席研究員は、その上で、国際通貨基金(IMF)のリポートを引用する形で、
「中国本土経済の成長率が1ポイント低下すると、韓国の国内総生産(GDP)成長率が0.5ポイント低下する。
また、米中の貿易戦争で韓国は少なからぬ代償を支払うことになる。」
との見方も示しているのであります。
そしてまた、同時に米ドル高による資本流出の可能性も追加されるとしており、韓国経済に対して、総じて厳しい見方が示されたことになります。
私も基本的には同様の見方をしており、特に、
「韓国からの資本流出に伴う米ドル資金ショートによるテクニカル・ディフォルト発生のリスクには、念のため、注意を払っていく必要がある。」
と考えています。
複雑な国際情勢の中で韓国が如何なる動きを示し、リスクを回避しようとしていくのか注目したいと思います。
引き続き宜しくお願い申し上げます。 |