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2011年9月[Sanada発 現場から]


 今月号は前回の中国本土特集に続いて、先月、筆者が訪問した新疆ウイグル自治区ウルムチの出張報告と、ロシアの出張報告の一部をご紹介させて戴きたいと思います。
  何かのご参考になれば、幸いでございます。

[中国本土・新疆ウイグル自治区・ウルムチの動向]

 

 恒例になっている夏季調査の一環で、ここウルムチに入って参りましたが、その目的は、

「ユーラシア中心部に位置する新疆維吾尓自治区は、日本では「シルクロード」「西域」として知られ、その歴史、文化について関心が寄せられてきた。

学術研究と共に歴史小説、地理的探検記、テレビ放映などにより日本国民、企業の関心は深い。

しかし、日本では中華人民共和国建国以降の新疆維吾尓自治区の地域経済・文化の発展に関する研究報告や報道は限られ、ともすれば古いイメージや偏った認識が持たれることが少なくない。

今後の日本、中国本土、アジアの新しい前向きな取り組みを促進するためには、新疆維吾尓自治区地域の経済・文化の発展と現状を正しく理解することが重要である。

そこで、新疆財経大学との共同研究によって、今日の新疆維吾尓自治区の地域経済・文化発展の現状および今後の地域発展可能性と課題を日本の地域、企業に正しく伝え両国地域間の経済・文化交流に資することを目的とする。」

ということで、私はその調査の前半部分に参加致しました。

そして、現地訪問行程概要は以下の通りであります。

烏魯木斉到着
烏魯木斉
新疆財経大学 共同研究協議
烏魯木斉経済技術開発区管理委員会
開発区企業訪問
烏魯木斉
烏魯木斉高新技術産業開発区管理委員会
開発区企業訪問
烏魯木斉→石河子(夕方移動バス150q)  石河子泊
石河子   農八師石河子経済技術開発区管理委員会
開発区の農場、企業訪問
石河子→博楽市(夕方移動バス350q) 博楽市泊
博楽市 阿拉山口岸 訪問
農五師 企業・農場・地域社会訪問
博楽市→伊寧市(夕方移動バス170q) 伊寧市泊
伊寧市 霍尓果斯口岸 訪問
「霍尓果斯共同開発区」、企業・農場・地域社会訪問     伊寧市泊
伊寧市→烏魯木斉(移動バス670q)  烏魯木斉泊

以下、ウルムチの状況のみ、ご報告を申し上げます。

 

 ウルムチは新疆ウイグル自治区の区都であり、ご高承の通り、天山山脈の中部北麓にある要衝地として栄えました。

 1763年に築城があり、テキ化と命名されましたが、中華人民共和国建国後の1953年にウルムチと改名されました。

 かつての隊商貿易の中心地でもあり、今も政治・経済・文化・交通の中心地としてこの地域の重要な役割を担い、人口も100万人をはるかに超える大都市であります。

 そもそも新疆ウイグルはジュンガリア盆地(天山北路)とタリム盆地を含む地方で、生活環境は厳しい地域でありました。

 東トルキスタンとも呼ばれ、既に紀元前6世紀には、この地域には多くのオアシス国家が存在していたと記録されています。

 紀元前2世紀後半の、有名な漢の武帝による張騫の派遣を機会にして、中国本土と西方を結ぶ要衝として栄え、下って、明の時代のカシュガル・ハーンの国などの分立を経て、清代には北部のジュンガル、南部の回部が勢力を持ったと記録されています。

 そして、その清代には全て、清に帰服した為、1884年には新疆省が新設されました。

 その間、一時、イリ川流域の一部がロシア領にはなり、またイスラム教徒であるドゥンガンの反乱もあり、中華民国時代の1933にはカシュガルでトルコ系ムスリムによって、東トルキスタン・イスラム共和国も建国されましたが翌年には崩壊、1944年には伊寧を中心にウイグル・カザフ両民族が東トルキスタン共和国を樹立しましたが、これも1949年の中華人民共和国建国を機に解散(崩壊?)し、1955年には現在の新疆ウイグル自治区が発足したのであります。

 気候は典型的な内陸性気候。

 交通は自動車道路が中心、鉄路ももちろん存在しています。

 産業としては、小麦・水稲・綿花・果物生産、木材加工、畜産品加工や、金・銀・鉄・石油・石炭などの鉱業も盛んでありますが、最近では重化学工業化が急速に進展しているようであります。

 即ち、現在、発展している製造業としては風力発電設備製造、鉄鋼業、食品、家具製造、自動車関連産業機械設備製造、電子産品製造、金属などがあり、今後はこれらの企業を輸出加工型、新技術開発型、ソフト開発も含めた最新技術型に育て、更に物流などを含めた第三次産業の発展を誘引、そしてその結果として国内有数企業の誘致や外国企業の誘致を促進、また交易センターなどの確立も目指していきたいとしています。

 そして、今後はこうした産業の工業化と商業分野の融合的発展などに注力していこうとしています。

 また、新疆進出の外資系企業の多くは、台湾系、香港系であり、韓国系は若干、日系大手は、僅かに積水ハウスが住宅用アルミサッシの生産を行なっていることが大型プロジェクトであるとのことでありました。

 民族としては、ウイグル族、漢族が中心ですが、カザフ・回・モンゴル・満・オロス・キルギス・シボ・タジク・ウズベク族など、多くの少数民族で構成されています。

 また、ここに住む外国人勢としては、香港、台湾の他、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタンなどの中央アジアの人が多く、米国人、ドイツ人なども僅かばかりでありますがいるそうであります。

 漢族の拡大と経済格差の拡大、中央アジア諸国の影響、就中、イスラムの影響などによって、社会的不安の火種は存在し、今もそうした混乱が残っていることはご高承の通りであります。

 また、新疆地域では、社会的混乱が続いているとの報道がある最近でも、北京をはじめとする大都市からのシルクロードツアーをする漢族は多く、また、旅行ばかりか、この地域で不動産を購入する動きも拡大している点が報告されていました。

 そして、こうした結果として先ず北部で、漢族の比重が増えており、先住の民族はカシュガルを中心とした南部に集まる傾向を見せる、その結果として新疆ウイグルにあって、北部より南部が政府に対する不満勢力が相対的には多く、騒動も南部のほうが相対的には多いという状況に繋がっていると報告されていました。

 尚、当地の人件費は意外に高く、例えば、一つの事例としてウェイトレスの月収は1,300〜1,500人民元程度、一方、預金金利も意外に高く三ヶ月物で6.15%など、銀行が資金を吸収して、貸出などを高金利で行なうほどの地元プロジェクトがまだまだ残っていることを感じさせる水準でありました。

 そして、地元民の話では、当地でも共産党幹部に対する不満は大きくなりつつあるが、それは他地域と同様であり、この地域特有の深刻さを持っているものではないとのコメントもありましたので付記しておきたいと思います。

 さて、新疆財経大学との共同調査に関わる基本協定に調印をした後、私達は現場調査に入りました。

 

1.新疆財経大学

 新疆地域の代表的な大学のひとつであり2万人を超える学生を有する一つの大きな単位(組織)である。

 商学部系の学生が最も多いが、経済学部系も強く、特に、地域経済、農業経済、少数民族経済、産業経済、政治経済などの分野で大きな実績を残している大学である。

 また、中央アジア経済、資源開発関連経済の分野にも強く、国家プロジェクトの認定を受けた研究が推進されている大学でもある。

 日本企業の新疆地域進出に際しては、基本情報の収集や、中央アジアに関するマーケティング、更には共同経営のパートナー探しといった点でも役立つ大学であろう。

 

2.ウルムチ市経済技術開発区・輸出加工区

 1994年に設立された開発区に2003年には輸出加工区が加わり拡大、更に、今年から地域の行政単位が加わって、地方の発展の為に設立された、職住接近の大きな行政単位となっている

 敷地面積は485平方キロメートル、9区に22万人が住み、仕事を持ち、大小併せて4,000社の企業が区内に所在している。

 世界500大企業が13社、中国本土500大企業が20社存在し、今後はソフトウェア開発用の区域の発展に努める計画である。

 また、風力発電機械製造やアルミ製造では中国本土最大の企業も所在している。

 食品加工分野も強い。

 全国116の経済開発区の中で、216項目からなる審査を経た経済実力度では全国32位に位置する経済開発区であり、西方地域では、成都、重慶、西安に次ぐ経済開発区となっている。

 2006〜2010年の第11次五カ年計画期間中は区内GDPが年平均26.4%伸び、2010年の区内GDPは約250億人民元となっている。

 これを2015年にはGDP695億人民元に引き上げる計画を持っている。

 またその際の財政収入は90億人民元、更に区内に一つの100億人民元企業、三つの50億人民元企業を誕生させたいと考えている。

 一方、今後は工業団地分野と都市建設を同時並行で推進、エコビジネスを推進、環境、緑地化に配慮した都市建設、更に医療、介護、住宅、各種行政サービスが充実している福祉充実型都市も目指したいとしている。

 この地域に現在所在している外資系企業関連の案件は33プロジェクト・34社、その投資額は5.7億米ドルであり、これは2006〜2010年に一年平均20%の伸びを示している。

 日本の投資企業は今の所なし、日本に留学していた中国人が日本の技術を持ち込み、水稲栽培を行なっている程度である。

 一方、区内には29の研究開発期間も存在している。

 今後は、ウルムチからの交通アクセスが鉄道の再拡大、空港の再整備などによって充実され、貿易分野の拡大も期待されている。

 現行の貿易総額は57.2億米ドル、これを2015年には68億米ドルにしたいとしている。

 輸出入比率は、輸出=7:輸入=3となっており、主要な輸出先はカザフスタン70%、その他はキルギスタンやトルクメニスタンとなっており、主要輸出品は衣料、生活用品、輸入はやはりカザフスタンなどとの間で、欧州製の各種機械製品や石油をはじめとするエネルギー資源を輸入している。

 主要な輸出手続は北部の阿ラ山口口岸と南部の紅ジュラナン口岸で行なっている。

 外資系企業誘致にも積極的であり、西方地域から中央アジア、そして東欧、欧州を望む橋頭堡として、この開発区・加工区は一つの大きな候補となろう。

 

3.中糧コカコーラ

 Offer trendy soft drinks, jointly create long term valueを企業理念に持つ、コカコーラのボトリング企業である。

コカコーラそのものは1933年には既に上海に上陸していたことが確認されており、中国本土でも既に確立されたブランド力を持ち、同社の設立は2000年に北京本社、そして中糧コカコーラ新疆は2009年に設立されている。

新疆の従業員は400人規模で米国人は駐在していない。

各種飲料水の原液は上海の中央センターから配布されており、新疆工場は機械化が促進され、ドイツの機械を中心にして、コカコーラをはじめとする飲料水のボトリングが行なわれている。

 そのDistributionに関しては、販売代理人がおり、生産注文、商品の受け取りは販売代理人側のビジネスである。

 商品の引渡しは、入金後となっており、原則として、販売代理人側が商品を受け取りに来るシステムが確立されている。

 

4.新疆機械研究院有限公司

 1960年には研究所としてスタート、2009年には株式会社化、2011年には深センの上場を果たし、その際に株価は大きく上昇した。

 また研究開発機関を出発点としているという背景もあり、技術関連の特許件数は69件となっている。

 農業機械製造を中心としており、主力製品は、とうもろこし収穫用トラクターとなっている。

 唐辛子収穫用トラクターも製造、次世代のビジネスコアになってくるものと期待されている。

 生産は注文生産、買い手は当初は新疆域内のみであったが、最近では国内各地域の資本家が買い手となっており、生産された製品は国内の他地域を中心に販売されている。

 日系の農業機械メーカーの技術提携先、販路拡大提携先、そして生産委託先などとしての潜在性を持つ企業であると思われる。

 

5.WUSUビール

 同社は新疆地域にある新疆ビールやWUSUビールなどの地方ビール工場の持ち株会社となり、その持ち株会社にカールスバークが57%の資本参加をして出来た新疆発祥のビール製造企業である。

 現在、固定資産は5億人民元、利益は2億人民元、納税額は1億人民元となる当地優良企業の一つである。

 ブランドとしては、辛口の新疆ビールと軽いWUSUビールが主力であり、新疆地域のビールの86%のシェアを昨年は確保しているとのこと。

 新疆地域には10箇所の生産工場があり、従業員数は約3,000人となっている。

 原材料は大麦を自社で生産、その地は契約農家から購入する形で確保、ホップも地元の企業から購入している。

 これに、地元の水(一日当たりの水処理能力は5,000トン規模)でカールスバークなどから導入した技術とイタリア製、青島製のボトルマシンをはじめとする機械を導入してビール生産をする。

 缶ビールはなく、瓶ビールと生樽ビールが生産品となっている。

 年間生産量は10工場合計で60万トンとなっている。

 主たる販売先は新疆域内で他地域への販売は、カザフスタンへの輸出なども含めて5%程度となっている。

 販売には営業部が代理店工作をし、原則、前金決済をした後、ビールを代理店に引き渡す仕組みとしている。

 中国本土国内では、大手のビールメーカーの寡占となっているところに外資大手が食い込む厳しい市場環境となっていることから、当社とのビールを巡る連携は難しく、むしろ生産管理システムのサポート、水処理や廃棄物処理のシステムサポートなど、周辺分野での日系企業との連携の可能性はあるのではないかと思われる。

 

6.新疆ウイグル製薬

 同社は新疆の病院を発祥とし、その病院が持つウイグル薬品の製造特許という無形資産に対して武漢の企業が関心を持ち、現金出資をして設立されたウイグル薬品メーカーである。

 国家が正式に認定するウイグル薬品41種中21種の製造特許を持ち、資本金は20百万元、年商70百万元、利益10百万元となっており、この五年間の年間平均売上高伸び率は約40%となる優良企業である。

 尚、今年の年商は100百万人民元が目標とされている。

 また、こうした業績を背景に、数年後には深セン市場への上場も計画している。

 主たる製品は、感冒薬で年間20百万元の生産、痛風薬が年間15百万元、そして血流をはじめとする循環促進薬が10百万元となっている。

 販売先は現状、全て国内、輸出は無い。

 原材料の多くは新疆地域で栽培し、契約社員と契約農家がこれを生産している。

 こうした契約社員数は多い時期には400人、そして常時100人は超えている。

 その他の一部の原材料は国内、そして海外からの輸入となっている。

 また、原材料は全て植物性のものであり、動物性その他はない。

 販売先は病院に限られ、市販はされておらず、国内各地に営業拠点を置き販売拡大に努めている。

 正社員数は210人、うち生産ラインには70人、研究20人、営業90人、その他30人となっており、新薬開発は全て、この研究スタッフが行なっている。

 給与の伸び率も二桁台であり、注目企業の一つである。

 尚、ウイグル薬の効能については、世界的に見てもウイグル族の長寿人口の比率が高く、その背景には、こうしたウイグル薬の効能が一つの背景になっているとの同社の我田引水的説明がなされたが、そうした効能の可能性も十分に期待されると思われる。

 日系製薬メーカーとの連携といった正攻法のビジネス連携の可能性もあろうが、それと共に、例えば、当該医薬品の原材料を含んだ健康にもよい化粧品の生産展開などといった連携の可能性も模索できるものと思われる。

 

7.美克国際家具

 同社は上場企業であり、胡国家主席や温主将も訪問をする地元有名企業の一つであり、フォン東明氏という地元出身の家具デザイナーが1986年に設立した企業で、初期段階で、広東省に展開していた台湾人の出資を受けて、事業展開を拡大、その台湾人のルートで米国企業との関係を持ち、現在、米国企業の委託加工先としてのビジネス展開を行なっている。

 製品の全量を、トラックで天津、天津から船荷で米国に輸出するという販売体制を取り、年商は220百万米ドルとなっている。

 主たる製品は食卓を中心とする家庭用の家具であり、初期段階で天山山脈の木材など地元の天然木を原材料としてきたが、最近では、米国側の要請により、ニュージーランド製木材を原材料に製品生産を行なう比重が急速に高まっている。

 また、こうした原材料輸入と販売先への輸出を鑑み、天津にも工場を持ち、ここでの生産も開始している。

 委託加工による利益率の低下などもあり、

*独自ブランドの開発や独自デザイン作成と米国への売り込み拡大

*米国市場でのマーケティング拡大と独自販路の確立

を目指すといった新戦略に出ている。

 従業員一人当たりの平均賃金は2,300人民元、労働者の一部は新疆ではなく、甘粛省からも来ている。

 見るところ、煩雑な家具製品ではなく、きちんと欧米市場でも認知される家具製造に努めており、今後の同社の国際展開に合わせて、日系企業ののれん、技術、生産管理ノウハウなどを移転していきながらのビジネス連携の可能性はあるのではないかと見た。

 

8.新疆中国国際旅行社

 同社は既に1970年代より、中国国際旅行社総社の新疆Representativeとして存在し、新疆から外に出るアウトバウンドの仕事よりも、新疆に内国人、外国人を呼び込むインバウンドの仕事を旨とする旅行社であった。

 また当初は外国旅行社との直接コンタクトが出来ず、中国国際旅行社の代理事務のみを行なっていたが、その後は直接コンタクトが可能となり、その後の日本とのビジネスはJTB(当時は日本交通公社)の仕事が初めてとなった。

 現在は、上場はしていないものの、株式公開をされており、中国国際旅行社が最大株主ではあるものの、経営陣を中心とする幹部が約30%のシェアを保有する企業となっている。

 かつては、シルクロードツアーなどを含めて利益率の高いビジネスも多くあったが、最近では日中関係の悪化、新疆地域南部の不安定さなどを背景に、外国人ビジネスは不冴えとなっている。

 今後については、

「中国人の日本観光に関するアレンジ拡大」

を図ると共に、

「日本人観光客の誘致を、日本の空港と敦煌を直接結ぶ100〜150人くらいのツアーを企画し、直行チャーター便を就航させる。

 更にこれに際して、日本からは伊勢海老などの海産物を、中国本土からは乾燥棗や乾燥イチジクなどのドライ・フルーツを貨物として組み込み、利益率の高いビジネスをしたいとしており、こうしたビジネスを組む日本側のパートナーを求めている。」

とのコメントがあった。

 ビジネス的な可能性のある話であり、日本の旅行社などにも検討してもらえる余地があるのではないかと考える。

 

 以上が現場報告であります。

 少しでもご参考になれば幸いです。(尚、現地ではたくさんの工場ラインの写真などを撮影してきましたが、ここでは、ファイルが重くなりますので、添付致しません。

また、今回の出張で見る限り、電力、水道などの基礎インフラに関しては、大きな危惧は無いように感じました。)

[ロシアの動向]

ロシアは日本人にとってはやはり難しい国と思われますが、日本人が考えているよりは、意外に親日的な国とのことであり、私も今まで銀行界でのビジネス経験からして、それを感じるところであります。

だからこそ、政治の問題、そしてマスコミのロシアに対する偏った報道が日露ビジネスを躊躇させる要因となっていることを私は個人的には感じています。

もちろん、何でもかんでもロシアが素晴らしいとは申し上げておらず、しっかりとリスク対比リターンを考えることは必要ではありますがーーー。

また、福島原発事故の問題を基軸として日露を眺めてみると、チェルノブイリ事故の歴史を持つロシアのその後の動きから、

「政府発表、政権近くの原発事故問題に対する姿勢や対応、そして発表内容が不透明であり、そうしたことを背景とする政治不信が庶民の間にじわじわと拡散していった。」

という経験があるロシアに於いて、こうしたことが遠因となり、政権崩壊がその後、一定の期間を経て発生したことを参考にすると、

「日本はどうなるか?」

といった視点から日露を比較するロシア知識人も少なくないといったことを感じつつ、ロシア訪問をして参りました。

 

さて、そのロシアは本年4〜6月(第2四半期)に景気拡大ペースが2四半期連続で減速したと報告されています。

鉱工業生産が伸び悩んだほか、インフレが消費者の購買力に影響を及ぼし、経済成長で他の新興国に後れを取ったとの厳しい分析がなされています。

 即ち、ロシア連邦統計局の発表によると、4〜6月期の国内総生産速報値は前年同期対比3.4%増となっており、1〜3月(第1四半期)が4.1%増だったことから見ると明らかに減速であります。

また、ロシア経済発展省が事前に見込んでいた3.7%よりも低く、ロシアの景気減速は内外に強く印象付けました。

建設や輸送のほか、消費者需要や小売りなど景気拡大の重要なけん引役が予想以上に低迷したことがこうした背景と見られています。

 こうした一方で、ロシアに対する外国投資額は、この半年で約2.9倍に増加しています。

 ロシア連邦統計局の発表では、その金額は、およそ880億米ドルとなっており、本年6月末、外国からの投資総額は、3,150億米ドルとなっています。

 尚、ロシアの外国への投資総額は、950億米ドル超となっています。

 こうした状況下、次期大統領選挙で、再び、大統領に復帰するのではないかと見られているプーチン首相は、ロシアに対する外国人投資誘致を拡大するような姿勢を示唆しています。

そして、ロシア開発対外経済銀行は、ロシア経済への長期的な投資誘致を主要課題とした「直接投資基金」を設立したとコメントしています。

ロシアでの直接投資基金設立の必要性については、1月に開かれたダボス会議で、既にメドヴェージェフ大統領も声明を表しており、ロシア政府のイニチアティブが現実のものとなる見通しが高まったと言えましょう。

 ロシア開発対外経済銀行の直接投資基金は、非公開の持ち株投資基金の形で設立されています。

また、プーチン首相は、新たな基金はロシア経済に外国からの資金を呼び込むためのものだとの声明を表した上で、

「直接投資基金は、ロシア経済への長期的な外国投資の誘致に取り組む。

まずは、ハイテクノロジーや、エネルギー、石油・ガス分野、宇宙開発、薬剤に関する分野である。

同基金はその活動の中で、金銭面やノウハウの面でロシア開発対外経済銀行の援助を期待することが出来る。

このようなアプローチは、世界の投資社会において不可欠な権威を保証することになり、基金のスタートや、それに続く好適な活動条件を構築することができるものとなる。」

とコメントしており、米国経済、米ドル基軸に不安定さが見られる中、ロシアの経済的復権などを意識した外資誘致が展開される可能性も出てきたと言えましょう。

プーチン首相はまた、その他にもフォードとソレルスの共同自動車製造工場の建設計画もあると述べ、

「ロシアの自動車大手・ソレルスと米・フォードの協力は、ロシアの自動車産業へ新技術を導入し、タタールスタンやレニングラード州などロシアの様々な地域で、現在既に順調に活動している企業の生産能力を著しく増大することになるだろう。

私たちが提供しなければならない融資方法は、産業の局地化を高めることに方向付けられている。

これは、我々の外国パートナーのために政府が定式化している求めに完全な形でこたえるものである。

現在、ロシア自動車市場の成長を背景に、このような大規模プロジェクトを開始することが必要とされている。」

といったコメントもしています。

 こうした意味でも外国人にとってのロシアの魅力は今後、高まっていくかもしれません。

 米国はもとより、中国本土やインドと同様、ロシアにも引き続き、大いに注目をしていきたいと感じました。

 

 さて、モスクワに入るとすぐに私たちを出迎えたのは、

  1. 各地でしばしば見かける韓国勢の看板
  2. モスクワ市内までの約30キロに多く見かける大型ショッピングモール(私が以前に見たよりも整備されているように感じました。)
  3. 世界各国の自動車メーカーのディーラーショップ。中でもやはり日本勢、韓国勢と一部欧州勢の店舗が道路沿いに軒を並べていました。
  4. そして、モスクワ名物大渋滞(空港から市内までの約30キロ、夕刻の渋滞にかかり、二時間半近くかかりました。)

でありました。

 久しぶりのモスクワ、外観は大体予想通りのものでありましたが、やはり内部変化を感じる初日でありました。

 そして、次に実際にモスクワで政府機関、日系政府系金融機関、日系民間金融機関、日系大手メーカー、日系大手商社、世界的な会計・コンサルティング会社を訪問して、共通して見られたコメントは、以下の通りでありました。

 即ち、これを列挙すると、次の通りとなります。

  1. 約140百万人の人口、約1兆5,000億米ドルのGDP規模、約1,710平方キロメートルの国土面積は潜在的な経済力の象徴的数値である。一方、対外債務は約50百万米ドル、このうち短期の借入比率が高く、国家として見た場合、外貨返済に向けた資金繰りの懸念は依然として存在している。
  2. 高級車をはじめ、高級品ブランドに対する志向は強く、この結果として世界的なメガモールのモスクワ等でのビジネス展開は注目されている。こうした国内消費、高級品志向を支える一つの背景として、国民の可処分所得比率が全所得の約70%と主要先進国の約40%に比べても極めて高いことが挙げられる。但し、この裏側には貯蓄志向が弱く、また自国通貨・ルーブルではなく米ドル保有志向が強く、通貨・ルーブルに対する信認度が低いと言った側面も垣間見られる点、注意しなければならない。
  3. リーマンショック以降、ロシアは欧米スタンダードの受け入れには積極的な姿勢を示しており、WTO加盟も睨みながら、スタンダードの国際化を進めている点、外資の対ロビジネス拡大に関してはよい方向にあると考えられる。
  4. ロシア経済を一言で評価すると、資源・エネルギー依存度が高く、その好不調がロシア経済の好不調に正の連動をする傾向があり、また株価もやはり正に連動する傾向が見られている。こうした中、原油価格が政府の各種経済計画の前提条件となっている1バーレル=80米ドル前後よりも上振れる可能性が高いと見られる現行では、GDP成長率も予想以上に高くなり、財政収支も赤字からの予想以上の(予想では少なくとも2013年までは赤字基調が続くと見られている。)早期脱却も期待できる。いずれらしても、財政問題は欧米日本に比べると小さいものの、赤字からの脱却が必要とされ、政府も対応を急いでいる。
  5. ロシアの日本に対する見方は、日本の評価以上に高く、こうした視点から見た場合、ロシアビジネスがうまくいく可能性は想像以上に高い。親日家も予想以上に多く、ロシア庶民の中には例えば、村上春樹ファンが多いといった現象も見られている。
  6. ロシア経済を見るキーワードは「近代化の進展」であり、医療、エネルギー、原子力、IT、宇宙通信産業といった分野を発展させていく姿勢は、中央政府には強いものがある。
  7. ロシア経済は今後数年、4%程度の成長を維持、潜在的な経済成長力も高いものと予想されている。また、長期的に見ると、ロシア経済は4〜6%成長と安定的に成長していくと見られ、安定したビジネスの発展の可能性も期待できる。
  8. 人件費はワーカーレベルで1,000〜2,000米ドル/月、3,000〜10,000米ドルと、予想以上に高く、またその幅も大きい。
  9. 外資系企業にとっての最大懸念事項は*通貨ルーブルの不安定さ*許認可の煩雑さ*汚職の拡大などが、三大懸念と見られている。
  10. ロシア経済に関しては、*原油・エネルギー依存度の高さ*原油とGDP成長の相関関係*大統領選挙の問題*インフレ脱却問題(インフレについては最近、改善したとはいえ、11%程度から9%への改善と、まだまだ物価の低下、安定が必要とされている。)*個人消費の動向(失業率はEU平均の約10%前後から見ると6〜8%と最近では、相対比較で安定しており、これに伴い、収入にも安定傾向が見られることから、当面は個人消費も堅調に推移しようという見通しがなされている。)などが経済成長率見通しに影響を与えている。
  11. 毎年約300〜400億米ドルのフライトマネーが出ているといった問題があることも認識しなければならない。ロシア経済の危機の一つにこうしたフライトマネー問題があることも認識しなければならない。
  12. 政策では、現行の経済安定の中で、社会政策重視の傾向が見られている。またこうした経済安定を中長期的にも継続していく上で、天然ガス・石油、原子力、自動車、鉄道、造船、金融分野の発展を意識、必要に応じて外資も誘致したいとしている。視点を変えると、医療、エネルギー、原子力、IT、宇宙通信産業の発展を推進していきたいとしていると見られる。
  13. 今後、オリンピックやAPEC開催なども予定され、こうしたイベントを軸に国家インフラの発展とこれらイベント推進に伴う経済発展、経済活性化の期待は強い。
  14. 自動車産業の発展の余地はまだまだ大きいと見られ、注目されている。価格志向が強い一方で、高級車、大型車、SUV志向が強く、中でも日本車に対する関心は高い。こうしたことから、日本車と韓国車のシェア拡大が期待されているが、欧米勢もロシアへの参入には積極的であり、シェア競争は激しい。ロシア自動車メーカーの内製化傾向は強く、部品メーカーはあまり育っていない。部材の現地調達要求がロシア政府から強まっている中、現地での部品調達には課題も多い。ロシア車:外国車のシェア比率は大体30:70と見られている。ロシア政府としては、買い替えに対するインセンティブをつけてロシア車のシェア拡大を支援する姿勢を示している。現行でみるとロシアの人口1,000人当たりの自動車保有台数は約240台と、これが、ロシア市場の潜在的発展の根拠としてしばしば使われている。また、中古車から新車への買い替え需要も期待されていることから、自動車市場の潜在的な可能性は高いと期待されている。
  15. ロシアは中国本土、インドなどに比べると法治国家的対応が強く、外資系企業として相対的には信頼し得る法体制とその運用がなされていると見られている。但し、外資系企業にとっては、法手続きは一般的には煩雑であり、法解釈、税法解釈の難しさも、やはり他国同様に指摘されている。こうしたことから、ロシアで現地法人化(法解釈上のロシア企業化)をなるべく遅らせ、外国企業としての活動を継続して実体的なビジネスを展開する外資系企業が多い。
  16. ロシア経済は長期的にみると変動が大きく、外資企業の対ロ進出に関しては、先行きの見通しを詳細にしつつ、注意をして検討をしていかなくてはならない。
  17. 日本製品のマーケティング・売り込み、ビジネスパートナーの選定などに関しては、ロシア国内に六ヶ所設立されている日本・外務省出先機関である「日本センター」の利用も効果的である。

といった点でありました。

 こうした点を踏まえて、(尚、現地市場視察も含めたモスクワ観光もしつつでありますが、例えば、市内視察では、市内の清潔さや整然とした朝の出勤の様子、食品市場での整然とした感じや、店員の明るい優しい振る舞い、私などはにこやかに声を掛けられてたった10分でアイスクリームを二つ、そしてカシューナッツなどもたくさんおまけをしてもらい買いました。ここは表示価格でありますから、その表示価格以上におまけをしてもらったことはよくわかり、とても気分の良いショッピングが出来ました。更に、大型ショッピングモールでの活気と実際に見たモスクワ市民の購買意欲の強さなどが大いに印象に残りました。またロシア正教の教会の荘厳さやクレムリンの中の和やかな雰囲気も感じ、エリツィン元大統領のお墓などが入る墓地に行くとロシアの人々の埋葬に対する様子、例えば、故人の業績を讃える文や、墓碑に遺影が刷り込まれているなどの様子も含めて様々なロシアの様子を垣間見た気が致しました。)我々はサンクトペテルブルグに夜行列車で移動しました。

 夜行でしたので、最初のうちはその様子はあまり分かりませんでしたが、朝6時頃から空が白み、窓の外を眺めると広い大地とゆったりと流れる川、或いはところどころで林の中を列車が通過するなど、ロシアの大地の広大さを改めて感じながら、人工都市、美しい都市であるサンクトペテルブルグに入りました。

 サンクトペテルブルグはご高尚の通り、帝政ロシアの欧州化の象徴として計画的に建設された都市であり、軍港を含む港湾施設を持つ都市としての役割は極めて大きいところであります。

 また、プーチン首相とその取り巻き達が様々な新たな利権を誘引しようとしている地域とも見られ、ロシア政府の外資導入姿勢にも、こうした点が反映されるとも言われている地域であります。

 こうした点を意識しながら、日系政府機関の現地駐在員事務所、日系企業の駐在員の方々との面談、ビール製造工場、家具製造工場を見学して参りました。

  1. バルチカビールは1990年に旧ソ連中央政府が、当時の需要拡大見込みに従い設立したビール会社の一つであり、現在はカールスバーグが株式シェア約70%を保有する民間企業である。年間約20億リットルを生産、従業員約11,000人、但し、うち約半分が物流の為の自社運転手、700人が幹部社員、3,000人が生産ライン従事者となっている。最新機械を1990年以降、ドイツを中心とする欧州から持ち込み、現在はロシア最大のビール会社である。水、麦芽やホップなど、ほとんどの原材料は自社調達、ビールを詰める瓶や缶、ペットボトル(ビールのペットボトルもあり。)などは他社生産が中心、またこれらについては、リサイクルシステムを構築している、販売は本社がマーケティングをし、小売店につなぐ形式となっている。生産は計画生産であるが、消費は堅調であり、在庫はあまりなく、決済条件は前受け、商品後渡しが原則、輸送については、輸送担当人員を自社内部に持つなど、強化されている。政府の方針などもあり、ビールの販売拡大に対してはマイナス材料が多いが、需要そのものについては、発展が期待されている。約90%が内販、輸出比率は全体の約10%となっている。ISO2001も取得している。
  2. イケアはロシアの発展性に目を向けた世界ブランドであり、販売拡大を意識した戦略がとられている。2006年にロシアに進出しているが、販売商品は世界統一ブランド、各国の特徴を意識したブランド、地場ブランドの大きく三種類が主たる商品群であり、また、ロシアの居住様式のアパート化に併せた製品開発なども推進されている。イケア・ロシアには不動産、製品販売、ロシア製品の開発の主に三社の現地法人がある。ロシアでは、小売とショッピングモール運営をセットアップした営業展開がなされ、そこにイケア不動産部門が大きく関与しており、これがイケアグループのロシア展開の一つの特徴となっている。イケア・ブランドで売る高利潤と、巨大、潜在市場・ロシアを相手とした大量販売により、利益率は高い。今後はロシア個別商品の海外向け輸出なども計画されている。
  3. サンクトペテルブルグ地域での投資拡大については、港湾施設の利便性、人員確保の相対的な良さ、市場としてのメリットなどが挙げられている。欧米企業の進出集積に続いて、日系企業の集積も見られ、期待されている地域である。
  4. サンクトペテルブルグには上海建工という中国本土企業グループが開発する「バルト海の真珠」と呼ばれるニュータウンが開発されている。
  5. サンクトペテルブルグではソ連時代には月額家賃が月収の300分の1で3ったが、現在は3分の1となっている。

といった点になります。

 以上が今回のロシア訪問概要であり、少しでもご参考になりましたら幸いです。

 

これからも、引き続きどうぞよろしく御願い申し上げます。

以上
 
愛知淑徳大学 ビジネス学部・ビジネス研究科
教授 真田 幸光


真田先生のプロフィール
真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京三菱UFJ銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ドレスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。
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