先日、久しぶりでかつて駐在した香港に行って参りました。
最近は、香港に入る度に、
「中国返還後の香港に、かつてほどの活気は感じられないものの、安定成長の中で落ち着きが見られている。」
とも感じています。
しかし、欧州の財政問題を遠因として中国本土・華南地域の工場の一部では閉鎖なども見られ、景気鈍化の兆候も見られる中、香港経済の減速感も出ていると見られています。
そして、街中を歩いていると、市内にそうした雰囲気が感じられます。
先週も少しご報告を致しましたが、香港特別行政区政府は、
「香港の輸出は前年同月対比8.6%、輸入は10.5%減となっている。」
と報告する中、輸出入が揃って減少するのは2009年9月以来、約2年半ぶりであり、香港にとって、最大の貿易相手国である中国本土向けが輸出入ともに1割強減ったのが主因と見られているとコメントされています。
輸出入ともに香港の貿易の約半分を占める中国本土向けが、輸出が12.6%、輸入も10.6%減となっているとのことなのです。
また、今後も、欧州債務危機の影響が中国本土景気の減速に繋がり、香港経由の輸出入鈍化の継続となる可能性もあるとの見方がやはり強まっているようで慎重論が出ていました。
しかし、一方で中長期的に見ると、
「中国本土の発展継続を背景にして、香港経済も一般的、相対的には、引き続き、安定的な推移を示す。」
との見方が出ていました。
そしてまた、例えばHSBCが、世界貿易展望レポートの中で、
「中国本土の貿易量の伸びが2014年に米国を超え、2016年には中国本土が世界最大の貿易国になる。」
との予測を示し、
「中国本土の貿易の重要なハブである香港については、今後6年間の貿易量の伸びが世界平均を上回る。」
との見方も示し、香港経済に対する懸念払しょくを示す見通しを出していました。
詳細に見ると、HSBSは、
「今後15年間の世界の貿易量の年平均増加率は86%である。
そして、このうちアジアの貿易量は120%の伸びを示す。
また、世界貿易の成長率が加速する時期が市場予測の2015年から2014年に速まる。
即ち、世界経済成長の減速と収縮が2014年に収束する。
今後5年間の世界貿易の年平均伸び率は3.78%となり、更に2017年から2021年までは、世界の貿易商品に対する需要が再び拡大し、年6.23%の伸びとなる。
中国本土の貿易伸び率については、2016年までの5年間が6.61%、2017年から2021年までの5年間が7.41%になる。」
といった予測を示し、香港経済に対する強気の見通しの背景として、中国本土、香港貿易の伸びを示している点、注目されました。
一方、香港特別行政区政府は、この4月からはじまる2012年度の政府予算案について、
「世界経済の先行きが不透明な中で市民生活の向上を図り、香港が国際競争力を強化し、中小企業の支援拡大を図る予算案を準備した。
前提として、GDP成長率は1〜3%成長、物価上昇率は3.5%程度と見込む。
そして、政府支出は総額3,937億香港ドルとし、政府収入は3,903億香港ドルと見込む。」
とコメント、更に、香港の世界的に見た“比較競争優位”を保つため、
*文化
*クリエィティブ産業
*医療
*教育
*技術革新・科学技術
*環境産業
*試験・認証
の分野の産業振興策を盛り込んだとコメントしています。
更に、香港政府は、中国本土との経済関係拡大、強化が香港の比較競争優位維持の一つの重要なポイントであるとの認識の下、香港・中国本土経済貿易緊密化協定(CEPA)の交流の更なる強化を図ることで合意し、貿易投資促進措置、金融・観光、技術革新の協力強化を前提とした具体策を進めていくことを発表しています。
そして、国際通貨基金(IMF)が、
「香港の連動相場制、そしてこれを支える金融安定化策の推進を強く支持する。」
との主旨のコメントを示しており、香港の安定的発展が、国際機関であるIMFによってもかなり裏付けられたとの見方も出ています。
こうした背景もあってか、中長期的に見た香港の発展と安定を意識して、香港に進出する企業数が増えているようであり、香港政府・統計局のデータによると、2011年上半期に香港に進出した外国企業(中国本土企業を含む)は、前年同期対比5.9%増の6,948社となっています。
因みに、その内訳は米国企業の1,328社、日本が1,150社、中国本土が805社、英国が562社となっています。
ところで、今回は各地域を久しぶりで確認しましたが、一つは物価が上昇しているのではないかと感じることです。
いわゆる体感景気ですね。
香港ドル建ての様々な庶民向け商品やサービスの価格がちょうど一年前と比較すると上昇しており、円高のおかげで日本人旅行者の私たちにとっては、円建てに直すとあまり高いとは感じませんが、やはり庶民にとっては負担なのではないでしょうか?
ヒヤリングをすると、賃金はそこまで上昇していない、また、需給関係がはっきりと出やすい香港にあっては、必需品の価格上昇が適度にコントロールされておらず、庶民生活を圧迫しつつあるとも感じられます。
こうしたことも、中国本土経済の7%程度の安定成長化への転換が進めば、沈静化するとの声もありましたが、やや心配であります。
また、香港の高級マンション事情ですが、その近代化、効率化は更に進んでいるようであり、見学させてもらった高級マンション(最近は九龍半島側も人気で、特に九龍駅近くは高級地域です。)は、セキュリティーの良さ、高層マンションはもちろん、マンションの中流階である60階前後にレストラン、トレーニング施設、バスケットコート、プール、宴会・会議場やテラスなども完備、また各部屋もコンパクトで機能的な部屋から広くて功利的な間取りの部屋もあり、更に、高度化しているようであります。
但し、家賃が日本円にしても30〜40万円もするので、高いのですがーーー。
いずれにしても、かつての、返還前の香港の熱気を知る私にとって、「落ち着いた、しかし、それでも成長を続ける香港」には、今また、その新しい魅力を感じさせます。
引き続き、香港を中国本土・華南地域も含めながら、定点観測していきたいと思います。
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