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2015年6月[Sanada発 現場から]


[世界秩序の変化に対する闘いについて]

 私は現行の世界経済秩序は、東西冷戦後は、ブレトンウッズ体制によって支えられ、
* 世界の為替に関するルール作りとその管理・監督をする国際通貨基金(IMF)
* 世界の復興と開発に関するルール作りとその管理・監督をする国際復興開発銀行(IBRD)を基軸とする世界銀行(World Bank)グループ
* 世界の貿易と投資に関するルール作りとその管理・監督をするGATTの発展形態である世界貿易機関(WTO)
によって支えられ、また、第一次世界大戦の戦後賠償の管理機関から発展した国際決済銀行(BIS)が金融機関と国際金融そのもののルール作りとその管理・監督をする機関として世界経済秩序の根幹を支えていると考えています。
  原則として、法治社会である現行の世界を経済の面から支えるこれら4つの機関はある意味では、
「秩序」
そのものであり、このスタンダードに対しては原則絶対服従である訳でありますが、最近は、その秩序に対する不満や不信といったものがじわじわと高まってきているのではないかとも私は感じています。
 そして、現行の秩序を維持していこうとする米国とそれをサポートする日本とその他の国々の間の見方や意見の違いも出てきています。
 例えば、世界銀行グループの一翼を担うアジア開発銀行(ADB)に対しては、インドネシアの大統領は公然と、
「ADBは既に時代遅れである。」
との主旨の発言をした上で、中国本土が主導する、「新興国の新興国による新興国の為の開発銀行」を強くイメージさせる新たな開発銀行としての、
「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」
の設立に強い期待感を示しています。
 このような一つの事例に見られるように、現行の世界には、過激派のようなテロと言った形ではなくとも、少しずつ、平和裏に、
「現行の世界秩序を変えていこう。」
といった動きが出てきていると私は見ています。
 これに対して、現行の秩序の基軸、根幹を担う米国はそうはさせじと、
「現行の世界秩序維持」
に躍起となっており、日本政府もその米国と基本的には平仄を共にする動きを示していますが、
「米国の威信(Dignity)低下」
の中で、上述したように、公然と現行の世界秩序に対する不満や不信を示し、新たな秩序構築に向けた動きを示しだそうとする国も新興国を中心に出てきている、そして、私の見るところ、第二次世界大戦の敗戦国であるドイツも実は密かに新たな世界秩序の構築を期待しているのではないか、東西冷戦崩壊によって世界に於ける立ち位置を悪化させたロシアも、今をチャンスと現行の世界秩序の変化を誘導しているのではないかと私は考えています。
 そして、東アジアの安定と秩序維持に対しては、日本と同様に米国と平仄を合わせてきた韓国も最近では、少しずつ、米国離れをしているのではないかと私は推測、この仮説を基にして、今の韓国政府の動きを観察しています。
 さて、こうした中、その韓国で、現行の秩序に関する韓国の姿勢をチェック出来るのではないかと思われるような事態が起こっています。
 その事象を以下に韓国のマスコミ報道などを基にして私の言葉で纏めてみたいと思います。

 具体的な事態とは、
「韓国政府と米国系プライベートエクイティ(PE)投資会社ローンスターの投資家・国家間紛争(ISD)条項に基づく訴訟」
であります。
 5月15日(但し、米国東部時間)、米国の首都・ワシントンにある国際投資紛争解決センター(ICSID)で、このISDに関する1回目の審理が始まりました。
 韓国政府が外国投資家と争う事実上初めての今回のISDは、国として戦う訴訟であるため、多大な税金にも関わる案件で、その結果が敗訴と言うことにでもなれば、韓国国内では、敗訴したという内容だけでなく、勢の無駄遣いといった視点からも様々な波紋を齎す可能性のある事象であります。
 そして、上述した“現行の世界経済秩序”という視点から、とても大切なことは、今回のISDは、世界銀行グループ傘下のICSIDという組織で行われるものであり、ルールを作る世界銀行グループが、そのルールの監督・管理(司法的役割)も担っていることから、その傘下機関であるICSIDが国際投資紛争の調停と仲裁を担うことになっているということなのであります。
 そして、韓国国内では現行の世界経済秩序の基軸にある米国に近いと予想されるローンスターに有利に裁判は進められ、結果として、韓国政府は敗訴するのではないかと推測されている、そして、もしも、実際に韓国政府が敗訴することになれば、やはり現行の世界経済秩序は韓国のような立場にある国には、表面的にはいくら平等であると説明されていても、結局、実際には不利に運用されるようになっているのではないかという声が強まり、一層の現行の世界経済秩序離れ≒現行の世界経済秩序の基軸にある米国からの離れという行動を韓国政府が示してくるのではないかと思われていることなのであります。

 今回の訴訟そのものをもう少しだけチェックしておきましょう。
 今回の訴訟は、ローンスターが原告、即ち、ローンスターが韓国政府を相手取り、韓国外換銀行(KEB)の売却の遅れと不合理な課税で46億7,900万米ドル相当の損害を被ったとし、2012年11月にICSIDに仲裁を申し立てたことに端を発しています。
 そして、今回の第1回目の審理は双方当事者と代理人が出席し、非公開で行われることになっています。
 先ずは訴訟の成立にかかわる管轄権問題が取り上げられている模様で、ローンスターはベルギーに設立したペーパーカンパニーの子会社を通じ、韓国外換銀行やソウル・江南の大型ビルなどに投資しました。
 これらの投資行為は韓国とベルギー・ルクセンブルク間の投資協定(BIT)の保護を受けるべきだと主張しています。
 これに対し韓国政府は、実体のない子会社のため保護対象にはならないとの立場を取り、対立点の一つとなっているのであります。
 ローンスターはまた、韓国・国税庁から課された8,000億ウォン台の税金を不当と主張しています。
 韓国政府はローンスターの子会社を租税回避目的で設立したトンネル会社と看做し、投資協定には該当せず課税は当然であると反論、これが大きな対立点の二つ目であります。
 更に、最大の争点と見られているのは韓国外換銀行の売却承認問題でもあります。
 ローンスターは2003年10月に1兆3,834億ウォンで韓国外換銀行を買収、2006年から売却に動き出したが交渉がまとまらず、結局、2012年にハナ金融持ち株会社に3兆9,157億ウォンで売却したのでありました。
 しかし、ローンスターは、2007年に英国の金融大手であるHSBCに韓国外換銀行株51%を売却する契約を交わしたにも拘らず、当時の韓国政府がそのHSBC向け売却の承認を遅らせた為にこの話が白紙になったとし、その際の損害賠償の責任を韓国政府が負うべきだと主張しています。
 これに対して、韓国政府は当時、ローンスターが韓国外換銀行を格安で買収した疑惑をめぐる背任事件と、韓国外換銀行と関連会社である外換カードの合併に絡む株価操作事件などがあり、すぐに売却を承認する状況ではなかったとして反論しているのであります。

 こうした訴訟に対して、ICSIDは如何なる判断を示してくるのであろうか、そして、結果として、韓国政府にとって、不利な方向に進めば、韓国の現行の世界経済秩序に対する不満や不信が強まり、その結果として、現行の世界経済秩序の根幹を担う米国から少しずつ離れていくのであろうか、私は、この訴訟問題は韓国の今後の姿勢を占う一つのリトマス試験紙のようなものとなると考え、注目しています。
 そしてまた、こうした点を踏まえて、私が気にしていることは、
「現行の世界の実体経済のルール作りとその管理・監督をするという役割を担う秩序として注目されているTPPの行方」
であります。
 前述したように、日米は現行の世界経済秩序を守るという立場から協力をし、先般の安倍首相米国議会演説の中でも、安倍首相は米国が主導するこの「TPP」を強く支持し、また日本国民も長い経済的低迷を受けて、トヨタのような超効率的な輸出企業だけに頼ってはいられないという事実に気づき、長年問題を先延ばししてきた農業団体のような産業と決別しようとしていると述べ、米国ではまた、こうした姿勢を示す安倍首相を支援すべきだと主張する声が強まっています。
 そして、米国国内では、
「TPPは単なる貿易取引ではないし、更に言えば、世界のGDP(国内総生産)の40%を占める地域への戦略的投資の問題ですらない。
 TPPは、法の支配、民主主義、自由という私たちが信奉する共通の価値を世界に広め、根づかせる機会である。」
と言った声も強まってきており、こうした日米協調に対して、中露はもとより、韓国もどのような反応をしてくるのか、更に私は注目しています。
 難しい時代となりました。

 引き続き宜しくお願い申し上げます。


 
以上
 
愛知淑徳大学 ビジネス学部・ビジネス研究科
教授 真田 幸光


真田先生のプロフィール
真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京三菱UFJ銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ドレスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。
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