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2017年10月[Sanada発 現場から]


ロシアについて


 今回は久し振りに訪問したロシアについて私見を述べたいと思います。
下記をご覧下さい。

 ロシアは未だに入国の厳しい国で、事前に宿泊ホテルや簡単な行動ルートを決めて、ロシア側から招聘がないと入国ビザが取れない国であります。
もちろん、かつてに比べれば、かなり規制は緩くなったと言われていますが、それにしても厳しい国の一つでありましょう。

 さて、そのロシアですが、私の認識では、
「政治、社会的には安定、国際的に見た軍事力も充実している一方、景気は停滞しており、これがプーチン政権の最大の悩みとなっている。」
という状況にあるかと思います。
そして、そうした景気回復の切り札として、日本との連携による、
「軍需産業の民需産業への転換」
を期待しているものと見られています。
もちろん、ロシア経済の軸となる、
「資源・エネルギーの国際価格の回復」
も期待していることは間違いなく、特に、
「原油価格の回復」
には期待を大きくしているものと思います。

ここで先ずははじめに、北朝鮮問題にも、未だに一定の影響力を持つと見られるロシアの、極東地域に於ける、
「軍事力」
について、簡単に確認しておきたいと思います。
即ち、ロシア軍の東部軍管区には、

  • 地上軍:軍管区内に4個軍司令部を配置
  • 海軍:潜水艦23隻(戦略原潜5隻を含む)、主要水上艦艇7隻、作戦機約42機及び海軍歩兵
  • 航空・宇宙軍:作戦機286機
  • 北方領土周辺:2016年から2020年の東部軍管区(及び西部軍管区)における計画の実現として、北方領土及び千島列島周辺におけるロシア軍による調査・整備等の活動が活発化している。
  • 太平洋艦隊の基地設置の可否を調査する為、「クリル諸島」(千島列島)への探検航海を定期的に実施。
  • 国後島及び択捉島に地対艦ミサイルや無人機を配備。
  • ショイグ国防大臣は国家院に於いて、「クリル諸島」(千島列島)防衛の為,早期に同地に1個師団の配備を表明。

などの動きが見られています。
一方、ロシアは、現在、NATOの軍事活動を最も大きな脅威とし、米国によるMDシステムの欧州、アジア太平洋地域、中東への配備を世界の安全保障構造を侵食するものとして批判しつつ、一方で、中国本土との関係を世界及び地域的安定性を維持する重要な要素とし、その発展を追求するとしています。
また、2020年に向け、ロシア連邦軍等における近代化装備、武器及び特殊器材の割合を70%とすること、核抑止戦力、航空・宇宙防衛手段、通信・偵察・指揮システム、電子戦システム、無人航空機システム、ロボット化された攻撃システム、近代的輸送航空機、精密兵器及び精密兵器への対抗手段、兵士の個人防護対策システムの開発を推進すること、ロシア連邦の戦略的利益を防護する為の、北極のロシア連邦領域及び極東を第一とする海軍の発展を図ること、などを計画しています。
こうした中、ロシアの国防費は2010年以降増加の一途を辿っていました。
しかし、国防予算を見ると、2015年の3兆2,740億ルーブルをピークに2017年予算は2兆8,360億ルーブルと、石油価格下落等による財政状況を反映し減少に転じています。
こうした軍事力を背景に、米中と如何に対峙し、北朝鮮問題にも如何に関与しつつ、日露関係を考えてくるのかをしっかりと分析していく必要がありそうです。

それでは、問題のロシア経済はどうなっているでしょうか?
ロシアの主要産業は、鉱業(石油、天然ガス、石炭、金、ダイヤモンド等)、鉄鋼業、機械工業、化学工業、繊維工業と言われ、2016年のGDPは1兆2,807億米ドル、経済成長率は−0.2%とマイナス成長となっています。
2016年基準の貿易動向を見ると、輸出は、2,817億米ドル(燃料等鉱物製品、鉄鋼、貴金属等)、一方、輸入は、1,917億米ドル(機械類、医薬品、衣類)となっており、主な貿易相手国を見ると、輸出は上位からオランダ、中国本土、ドイツ、ベラルーシ、トルコ、イタリア、輸入は上位から中国本土、ドイツ、米国、ベラルーシ、フランスとなっており、ここではやはり、
「中国本土とドイツ」
の存在が気になります。
為替レートは、約59ルーブル/1米ドル(2017年7月)となっています
このように、石油・天然ガスなどの天然資源に経済的、そして財政的に依存するロシアでは、2015年の国際的な原油価格の低迷を受けて経済・財政状況が悪化しています。
2014年以来、原油価格の低迷を受けて下落していたルーブルの対米ドルレートは石油価格の上昇に伴い2016年には徐々に回復、また、株価も2016年初をボトムとし回復傾向を示し、インフレ率は、2015年には食料品を中心に高い水準にあり12.9%でありましたが、2016年には5.4%、2017年初には2.3%と落ち着いてきています

 こうした中、ロシアの実際の状況を私の目で眺めた点は以下のようになります。

今回は、ロシアのモスクワとサンクトペテルブルクをじっくりと回りました。
地に足をつけて各所を見学しましたが、ロシアに関して、この10日間で、今回感じたことを、まず、順不同に列挙すると下記の通りとなります。
以下は、私の肌感覚であり、あくまでも定性分析です。

  1. 改めて、ロシア人は日本好きな人が多いということを肌感覚で感じた。特にホテルのレセプションで応対してくれたホテル女性職員の、「日本人の方ですか?日本大好き!!」と片言で応対してくれたことは印象的であった。
  2. ロシア人は見た目は強面であるが、笑うと老若男女を問わず可愛らしい。
  3. ロシア人は几帳面できれい好きな傾向がある。公衆トイレやレストランのトイレなども総じて綺麗である。また、時間には正確である。
  4. ロシア人と一括りに書いたが、しかし、やはりロシアは多民族国家である。尚、今回、サンクトペテルブルクの民族博物館にて、その歴史を垣間見たが改めて100を超える民族を抱える多民族国家であることを確認した。
  5. しかし、ロシア人の一般活動の中ではあまり民族の違いに関するこだわりや差別は少ない。
  6. そして、多様性を受け入れる余地は比較的大きい。
  7. ロシアはかつては後進地域であったが新しいものを受け入れ、ロシア化し、発展していく術を持っており、柔軟性もある。新しいものを受け入れて自国化していくことをとく意図する点は日本との類似点とも言えよう。
  8. 一方、ロシア、ロシア人としてのプライドは高い。
  9. ロシアには、自然を愛し、崇拝する心はある。
  10. ロシアは、やはり大国である。
  11. ロシア経済は現在は決して良くない。
  12. しかし、モスクワには投機性の資金も入り、バブルが見られる。
  13. こうした結果、モスクワでは、失業問題などは取り敢えず顕在化していない。失業するよりも賃金の低下を受け入れるといった雇用者の傾向もある模様である。
  14. 物価は総じて高めである。
  15. 規制や事前手続きが煩雑な割には外国人観光客が多い。特に中国本土からの団体観光客の多さは目を見張るものがある。
  16. ロシアの宗教はやはりロシア正教が中心である。
  17. ロシアの食事は美味しい。食事に関しては、品質対比値段も比較的安い。
  18. また、ロシアのお茶、コーヒー、アイスクリーム、チョコレートなども絶品である。
  19. ロシアの都市部の治安は総じて良い。
  20. ロシア人の一般市民は多くの日本人があまりロシアを好きではないということを知らない。

と言ったことを感じました。

その上で、最後に少しだけ私の専門分野のお話をさせてください。

通貨は国家の主権の象徴です。
そして、ロシアのルーブルは東西冷戦時代に東側諸国の基軸通貨であつた旧ソ連のルーブルの流れを引く一流通貨の一つです。
しかし、アジア通貨危機の翌年に発生したロシア金融危機以降は、どうも、国際金融筋の投機の対象としても扱われています。
そしてまた、ウクライナ問題、クリミア侵攻などもあり、ロシアに対する国際的な制裁が発動される中、ロシア経済を支える資源エネルギー価格も下落、その結果として、ルーブルも打たれました。
こうして、ロシアの通貨・ルーブル相場は、2014年後半以降の原油価格の下落、同年11月の変動相場制への移行を経て、大幅に水準を切り下げていました。
そして、対米ドルでは2016年1月には1米ドル=82.5ルーブル、対円では2016年2月に1ルーブル=1.41円と、それぞれ史上最安値をつけていました。
しかし、その後、原油価格の持ち直しに伴い、ルーブル相場は対米ドル、対円ともに反転上昇し、また、米国トランプ政権の誕生により、やや地合いが変わる中、2017年入り、原油価格の更なる安定化を背景に、ルーブル相場は堅調に推移しました。
但し、本年4月下旬以降に原油価格が一時1バレル=50米ドルを割り込む局面では一旦、弱含みで推移しました。
その後、原油価格が6月下旬を底に再び上昇に転じたことに伴い、ルーブル相場も反発、今は対米ドルで58~59ルーブル、対円では1.8~1.9円台前後で推移しています。
こうしたことから、物価高に加えて、ルーブル高もあり、私にとっては、今回はロシアでは、あまり楽しい買い物、食事生活は出来ませんでした。
尚、ロシア中央銀行(CBR)は、2017年3月以降に3会合連続で累計1.00%の利下げを実施し、政策金利を9.00%へ引き下げています。
そして、市場では、CBRがインフレ率の低下を受けて2017年9月以降に利下げを再開し、政策金利を更に引き下げ、そうした利下げトレンドが再開されれば、景気は底堅さを増すとの見方を示していました。
しかし、私には、
「投機性資金の流入による見せかけの景気回復」
としか映らず、平均30,000ルーブル前後の賃金水準のロシアの一般市民には、今のところは、物価上昇の反対側で、景気回復感をあまり感じていないであろうと見ています。
一方、ロシアの実質GDP成長率は、2017年4〜6月期に前年同期対比+2.5%となっており、また、2017年通年のGDP成長率は前年対比+1.5%〜2.0%と、2016年の同−0.2%から改善するとの予測が示されており、こうしたマクロの数字で見た場合には、バブルを背景としているとはいえ、ロシア経済は景気回復していると見ておきたいと思います。
そして、こうした係数から見たロシア経済の成長期待の高まりに加え、実質政策金利が高水準にあることから、これがまた、ルーブルを下支えしているとも言えます。
しかし、いずれにしても、原油価格の先行きと欧米の対ロシア制裁による影響が不確定要因であり、変動幅が大きくなる可能性もあることを留意しておきたいと思います。

さて、マクロの数字で見る景気回復トレンド、そして、通貨・ルーブルの堅調を背景に株価も堅調に推移しそうな雰囲気です。
そしてまた、アメリカの利上げが具現化すれば、利上げは資産価格に悪影響を及ぼす為、投資家は米国株を売りロシア株を買いに来る局面もあり得ると私は感じました。
そして、ロシア株の中には配当が10%を超える優良株もあり、配当を受け取りながら長期で株を保有し得る投資家は、短期的な下落を気にする必要もなく、ロシア株を買いに来る可能性もありそうです。
このように、世界的な資金余剰の中、投機先を探る国際金融筋のカモにロシアの通貨・ルーブルとロシア株が晒される可能性がある、即ち、暫くはまだ、ロシア金融市場は堅調に推移すると私は見ています。
但し、リスクとしては原油が再び下落する可能性と、トランプ政権がアメリカ政府内の反ロシア勢力に押され、親ロシア的政策が取れなくなる可能性を留意しておきたいと思います。
一方、もし米国のトランプ政権によってアメリカが親ロシア的政策を取り続けることとなれば、プーチン大統領の外交政策のみならず経済政策にもプラスに働き、プーチン大統領は、
「軍需産業の民需産業への転換」
を図りつつ、ロシア経済の本格的な底上げに入ってくるものと思います。
北朝鮮問題で、米露の足並みが乱れず、中国本土とのパワーゲームの中でロシアが国際社会の中で良いポジションを取れるのか否か、引き続き注目したいと思います。

以上が今回の真田幸光のロシア紀行でありました。

 引き続き宜しくお願い申し上げます。

以上
 
愛知淑徳大学 ビジネス学部・ビジネス研究科
教授 真田 幸光
 


真田先生のプロフィール
真田 幸光氏(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部教授。
1957(昭和32)年生まれ。81年慶大法卒、東京銀行(現・東京三菱UFJ銀行)入行。韓国延世大学留学、ソウル支店、資本市場第 一部、BOT International(H.K.)Ltd.出向などを経て、97年独系ドレスナー銀行東京支店・企業融資部長。98年愛知淑徳大学ビジ ネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。2002年4月同 教授、2004年4月より現職。
著書は『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多 数。 NHKクローズ・アップ現代などテレビ、ラジオ出演をはじめ、中小企業大学校ほか活発な講演活動を展開中。
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