今回は日本の現状と、シンガポールの発展のプロセスを眺めてみたいと思います。
[私見 昨今の日本の課題]
日本の国債と借入金、政府短期証券を合計した2016年9月末時点での「国の借金」は、1,062兆5,745億円に達し、過去最大を更新していると日本政府・財務省はさらりとコメントしています。
これは、赤ちゃんも含めた国民1人当たりに直すと、なんと約837万円の借金を抱えている計算になり、日本国民のサラリーマン平均年収が400万円前後と言われる中、その年収の2倍以上の借金を国民が抱えていることになります。
つまり、一言で言えば、
「由々しき状態」
でありますが、日本人はこうした事態には、知ってか知らずか、あまり議論をしたがつていないように見られます。
ところが、このような日本のアキレス腱に対して、私の知る限りでは、外国人は高い関心を示しています。
今般の総選挙でも、外国人は日本を見るチェックポイントの一つとして、
「消費税を10%に引き上げるか否か?」
に関心を寄せていましたが、その心は、
「消費税を上げて、今度こそは、日本が借金を削減する方に向かうのか否か」
にあるようです。
即ち、そうした見方の背景には、
「日本は消費税を引き上げても、これまでは、借金が減った形跡は見られない。」
ということがあるからです。
ご存知のように日本の消費税は3%から1997年5%に、そして2014年8%に引き上げられたにも拘らず、国の借金は増加、やっとここに来て横ばいとなっているとの現実を外国人は知っているからこそ、今回は日本政府の様子を見極めようとしているのです。
外国人の方が日本のことを冷静に客観的に見ているのですね。
そこで、外国人のブラックジョークをお一つ。
「日本は消費税を上げているのに、その増税したお金をどこに使っているんだい?」
「そりゃー君、決まっているだろ。森友学園や家計学園のようなところに流れたのさ!!」
一方、私が町に出ると、あちこちでひそひそ話が聞こえてきます。
そんなひそひそ話に耳を傾け過ぎてもいけませんが、しかし、巷の声も大切にしなくてはなりません。
さて、私は、
「是々非々」
で物事を判断しようと努力しています。
特に、
「感情的にならず、論理的に判断すること」
を良しとしています。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」
と言ったことはもちろんしません。
従いまして、例えば、安倍政権の政策運営に関しても、しばしば、ひそひそ話にあるように、批判のみ、賞賛のみといったことはせず、良い面、悪い面を分けて考えています。
こうした中、内閣府は、11月8日発表した本年9月の景気動向指数で、景気の基調判断を12カ月続けて、
「景気は改善を示している。」
としています。
景気が拡大していることを表す表現で、2012年12月に始まった今の景気回復局面が「いざなぎ景気」(1965年11月〜70年7月)を超え、戦後最長だった2002年2月〜2008年2月に続く2番目の長さになることが確実となったと伝えています。
実際に、信頼すべき、日本政府の統計がそうですから、こうした発表は正しいのでありましょう。
しかし、こうした景気動向は、安倍政権の政策によってなされているのか証明されていません。
更に巷で囁かれているが如く、
「庶民には景気改善の実感が無い。
生活困窮者も実際に統計上増えている。」
という現状を見ると、これで満足してはいけないと思います。
従って、やはり巷でよく指摘されるが如く、
「成長戦略の完遂」
に向けた不断の努力を示しつつ、
「株価ではなく、実体経済で見た庶民にも利益が感じられるような経済政策の遂行」
は必須では無いかと考えます。
更に、外国勢からしばしば指摘される、
「増税を含む資金捻出を背景とした財政収支の改善」
に関しても、
「痛みを伴う改革」
として、年金制度の抜本的改革も含めて実施すべきでありましょう。
更に、根源的な点として、
「選挙制度そのものの見直し」
があると考えています。
以下、日本経済新聞などの大手マスコミの記事にもなっているように、
「得票率に比べて議席占有率が高くなる小選挙区の特性は、今回の衆院選でもはっきり表れた。
自民党の得票は48%と半分以下だったにも拘らず、議席占有率では76%に達して、他党を圧倒した。
同様の傾向は2005年に小泉純一郎首相(当時)が主導した「郵政選挙」から4回連続だ。有権者全体に占める得票割合は25%に留まった。」
「今回の総選挙で、自民党が圧勝したように言われているが、棄権者をも含む全有権者の中での得票割合を示す絶対得票率で見れば、自民は比例代表選挙で16.99%、 小選挙区で24.49%に過ぎない。
自民党は、今回の総選挙で、小選挙区は得票率48%で76%の議席を獲得した。
総得票数は2012年の前回選に比べて僅かながら減少し、有権者全体に占める得票割合,、絶対得票率は24.49%、約25%である。
小選挙区で落選した候補に投じられて議席に反映されなかった「死票」は2,540万票で、全体の48%にも達した。
前回、前々回の総選挙同様、得票率と獲得議席数が大きく乖離する小選挙区制の矛盾が如実に現れている。」
と言った選挙制度そのものに対する国内の批判にも目を向けるべきであり、そうした意味で、
「謙虚に政策推進する内閣」
は当たり前のことと言えましょう。
憲法改正議論もこうした本来すべき議論との優先順位付けを含めて、
「しっかりと政策運営をして欲しい。」
との声が、私の知る限りでは、巷には多いということを意識して、
「今般の選挙によって、民意を得た。」
などとの発言は控えつつ、
「強者の論理」
だけでの政策運営も控えて安倍政権には、自らの言葉とおり、
「謙虚に」
頑張って戴きたいものであります。
[シンガポールの発展]
課題が見え隠れする日本に対して、シンガポールは今、比較的、元気であるようです。
私が国際金融の仕事を通して知ったシンガポールという国は実に、
「スマート」
な国でありました。
計画国家としての色彩が強く、秩序の中に国の方向性をしっかりと捉える、統制色の強い国であったとも言えます。
また、英国との関係の深さなどを背景に、欧州国家との関係も深く、私が勤務していたドイツ系ドレスナー銀行のアジアのLegional Head Quaterもシンガポールに置かれ、シンガポールには多くの欧州人が駐在していたことを今でも思い出します。
シンガポールの歴史を紐解くと、そもそもシンガポールでは2世紀頃に人々の定住が始まり、それ以降は一連の現地の帝国に属してきたと言われています。
そして、今のシンガポールは、1819年にトーマス・ラッフルズがジョホール王国からの許可を得て、イギリス東インド会社の交易所として設立したことを基にするとされています。
因みにシンガポールにある老舗ホテル・ラッフルズホテルはこのトーマス・ラッフルズに由来しています。
そして、5年後の1824年には、英国はシンガポールの主権を取得し、1826年にはシンガポールは英国の海峡植民地の1つになりました。
また、第二次世界大戦の間は大日本帝国に一時占領されましたが、終戦を経た混乱の後、1963年にシンガポールは英国からの独立を宣言し、マレーシアと合併しました。
しかし、その2年後に、シンガポールはマレーシアから追放されました。
むしろ、これがシンガポールにとっては幸いし、それ以来、実力を持つ華人(例えば、有名な人物としてはリー・クワンユーシンガポール元首相)を中心に、英国をはじめとする欧州との連携も維持したことによって、シンガポールは計画経済を推進、急速に経済発展し、アジア四小龍の1角として認知されることとなったのであります。
こうしてシンガポールは今、貿易、交通及び金融の世界的な中心地の一つとなっており、世界第4位の金融センター、外国為替市場及び世界の港湾取扱貨物量でも世界有数の金融市場と貿易港を持つこととなり、金融・サービス並びに世界物流の重要な中継地となっているのであります。
因みに、国際金融機関である世界銀行も、
「シンガポールは世界で最もビジネス展開に良い国である。」
と認知してきているのであります。
こうした結果、シンガポールの一人当たり国民所得は6万米ドルを超えており、世界有数の国民所得を有していますが、一方で世界有数の所得格差も存在する国とされており、光と影が交錯する国でもあります。
こうした中、私が注目している点はシンガポールの人材開発であります。
但し、シンガポールでは、すべての国民に教育機会を与え、国民全体のレベルを上げるというような人材開発が進められているというよりも、国力を増強する為、計画経済の下、優れた人材に優れた人材開発、教育の機会を与え、国力を増強すると言う形での人材開発が推進されている国と見られます。
また、上述した「所得格差」はこうしたことを一つの背景として顕在化しているとも言えます。
また、シンガポールの歴史の中では、リークワンユー元首相は、
「上位の遺伝子を持つ人同士の結婚を推奨した。」
などと言った話もあり、国家的な動きとして、こうした人材開発が推進されたことを窺わせる話も残っています。
さて、そのシンガポールの積極的な人材開発でありますが、様々な国際ランキングでは、教育、医療、経済競争力に於いて高位に順位付けされており、国力増強という視点からは、実績を残していると言えましょう。
そして、その人材の源となる国民の構成を見ると、この国は日本のような単一民族国家ではなく、多文化主義及び文化多様性がある国であります。
シンガポールの民族構成を見ると、華人(約75%)、マレー系(約15%)、インド系(約10%)及びその他若干のユーラシア人に大別出来、その大部分の人々は2言語を操る国民であり、共通語及び第2母語として英語を使用していることから、このグローバル時代にはあった人材が存在していることとなります。
このように実力のある華人によってリードされ、今日にまで至ったシンガポールは、その計画経済政策姿勢が当たり、現在は経済的繁栄をする国となっていますが、貧富の格差が生まれると共に、やや抑制された市民的自由と政治的権利や制限された言論の自由と言った特徴も見られ、シンガポールを、
「準独裁政治体制」
にある国家と看做すべきであると言った厳しい見方もあります。
尚、このシンガポールは、国際社会に於いては、東南アジア諸国連合 (ASEAN) 原加盟国5箇国のうちの1国であり、また、アジア太平洋経済協力(APEC) の事務局設置国、東アジアサミット、非同盟、イギリス連邦加盟国でもあります。
そしてまた、上述したように「光と影」を持つシンガポールではありますが、シンガポールの国際社会に於ける影響力、発言力は明らかに増していると認識しておかなければならないと思います。
引き続き宜しくお願い申し上げます。 |